成年後見人制度とは?手続きや費用、制度を利用する際のポイント
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- 【 相続の基礎知識 】
「介護をする親の生活費を引き出そうと銀行に行ったら、『後見人が必要』と言われたけど、そもそも後見人って何……?」
そんな疑問を持たれたこと、ありませんか?
今回は、花葬儀の相続手続相談室の顧問としても活躍されている司法書士の門脇紀彦さんと、弊社「花葬儀」葬儀プランナーの山田が、実際の事例を交えながら後見人についてお話しさせていただきます。大切な家族を守る「成年後見制度」について、少しでも新たな発見があれば幸いです。
司法書士の門脇紀彦先生 と 花葬儀 葬儀プランナーの山田久美
成年後見制度とは?
認知症や精神的な病によって判断能力が失われてしまった場合、自分自身で財産を管理することが難しくなり、日常生活に支障をきたしてしまいます。「成年後見人制度」は、そのような人たちを保護、支援するための制度です。
被後見人を守るための制度
成年後見制度は、判断力がないと診断された人の「意思」と「財産」を守るためのものです。 家庭裁判所が選任した成年後見人が、判断能力に欠けた人(被後見人)を、想定される困難や詐欺行為から守るために存在しています。
成年後見人の選び方は2種類あります。
●任意後見
判断能力が正常なときに、将来を見越して後見人を事前に選ぶ方法です。認知症などで判断能力が低下する前に、あらかじめ自分のお世話をしてもらう人を選ぶことができます。
●法定後見
法律によって支援者を定める方法です。任意後見が事前に後見人を選ぶのに対して、法定後見は親族などの第三者が家庭裁判所に申し立てを行い、家庭裁判所が後見人を選びます。現在は、任意後見人よりも、法定後見の割合が圧倒的に多いそうです。
『成年後見制度では、被成年後見人の意思がどこにあるのかを重視しなければいけません。認知症とはいえ、「ああしたい、こうしたい」という意思はあるのです。』
(門脇さん)
認知症以外で後見人が必要なケース
一方で、成年後見制度を利用するのは、認知症患者だけではありません。門脇さんによると、たとえば「精神的な病で後見人を選ぶことも多い」とのことです。門脇さんが後見人を務める方のなかには、認知症患者だけでなく、ひきこもりや統合失調症などの場合もあるそうです。
また、成年後見人の申し立て理由で一番多いのが、「預貯金を下ろしたい」というケース。介護が必要な親の代理で銀行に行ったところ、「後見人を選んでから来てください」と言われ、それから急に後見人を探す人が多いとのことです。
成年後見人の役割
成年後見人には
- ・療養看護
- ・財産管理
- ・親族間で財産に関係する紛争が起こるおそれがある場合:弁護士
- ・家族間でトラブルがある場合:弁護士
- ・不動産管理が必要な場合:司法書士
のふたつの役割があります。
それぞれがどのようなものなのか、ご紹介いたします。
療養看護
被後見人の財産や収入の金額を確認し、医療費や税金などの決まった支払額をおおまかに把握、そのうえで看護や収支の計画を立てるというものです。看護が長期間にわたることを考え、長い目で見た最善の計画を立てることが求められます。介護施設の入退所契約を結ぶなどの法律行為がおもな仕事のため、被後見人を介護するわけではありません。
財産管理
文字通り、被後見人の財産を管理する役割で、財布や預金通帳、印鑑を預かる、必要な契約の締結や遺産分割協議への参加も必要に応じて担当します。
一般的には、
が後見人になり、それぞれの専門分野を活かすことが多いようです。
成年後見人は親族が担当する?
先にお話ししたとおり、現在、成年後見人は司法書士や弁護士などの第三者が選ばれることが多く、親族が後見人になることはあまりないようです。しかし、つい最近、5年ほど前までは親族が後見人になるほうが多かったとのこと。なぜ、この割合が逆転したのでしょうか?
図:最高裁判所事務総局家庭局『成年後見事件の概況 -平成29年1月~12月-』より
『後見人になった親族による横領事件が多すぎるからです。よく報道されるのは、司法書士や弁護士が後見人の地位を利用して、被後見人の財産を横領する事件です。しかし、実際は親族の方が横領しているケースも、金額も多いのです。ただ、親族が横領するといっても、厳密にどこまでが横領なのかわからないですよね。』
(門脇さん)
『お父さんが認知症になってしまい、後見人になったあともお父さんのお金で生活している方もいらっしゃると思います。しかし、そんな人が「ちょっと贅沢したい」と、そのお金で旅行に出てしまったら、その時点で横領になるのです。』
(門脇さん)
家族の場合は横領の線引きが難しいと、門脇さんは話します。 また、家庭裁判所も細かく内容をチェックしていますが、すべてを把握できるわけではないので、亡くなったあとに横領が発覚することもあるそうです。
『横領が発覚したときに後見人じゃない親族が、「監督義務違反を犯した」と家庭裁判所を相手に訴訟にでるのです。横領事件や訴訟問題になるのを防ぐためにも、今は弁護士や司法書士が後見人になることが多くなりました。』
(門脇さん)
また、「流動資産」と呼ばれる、現金化しやすい資産が1000万円以上ある場合、第三者の後見人が選ばれる傾向がより強くなるそうです。
成年後見人の手続きの流れや費用を整理
成年後見人が必要な場合、被後見人の住所地の家庭裁判所に申し立てを行います。
たとえば、東京家庭裁判所の場合では、成年後見人の申し立てをする前に、面談の予約を行います。その後に申し立てを行い、審判で成年後見人が確定します。 申し立てから審判までは、1か月から2か月とされています。
成年後見人の申し立て費用
申し立てにかかる費用の例は以下のとおりです。
収入印紙 | 800円 |
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切手 | 3,320円 |
収入印紙代 | 2,600円(登記費用として) |
成年後見人に支払う報酬
基本報酬 | 月額2万円 |
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基本報酬 | 月額3~4万円 ※管理財産が1,000〜5,000万円未満の場合 |
基本報酬 | 月額5~6万円 ※管理財産が5,000万円以上の場合 |
成年後見人の申し立て後の注意
後見人の申し立てをすると、基本的に取り消すことはできません。そのため、成年後見人を立てるときは、十分に考えて判断しましょう。
『病院の診断書で後見人が必要と判断され、家庭裁判所に申し立てをしたら、後戻りはできません。たとえば、後見人になった方が理想と違っていても、取り下げは無理です。その人とどうやって今後の関係性を築くかを考えるしか、解決方法はありません。』
(門脇さん)
成年後見人は、被後見人が亡くなった時点で、その役割を終えます。また、診断された症状が治り、後見人が必要ないと判断された場合は、成年後見人選任の審判を取り消すことができます。
成年後見人の「葬儀」での役割
後見人としての役割が終わった時点で、被後見人の家族との関わりも制度上はなくなります。ただ、亡くなった被後見人に近親者がいない場合、後見人から葬儀社に連絡が来ることがあります。ただ、弊社の山田によると、それはあまり多くないそうです。
『後見人の方が、事前に葬儀社をお選びになり、提示した見積もりをもとに葬儀のプランを選んでいきます。ですので、急に亡くなったからといって連絡が来ることはあまり多くはありません。』
(山田)
『また、どのくらい葬儀に予算をかけるかどうかは、その方の財産によります。後見人の方から、予算をお伺いして、範囲内でできる予算を決めていきます。』
(山田)
花葬儀では成年後見人による葬儀も対応
花葬儀では、“喪主主導”で葬儀を行うのか、“後見人主導”で行うのかを十分に把握したうえで、葬儀を行います。後見人による葬儀も手厚くサポートしています。なかでも特徴的なのが、成年後見人の方でも契約できる「葬儀契約書」を用意していること。後見人による葬儀の連絡にもすぐに対応できます。
『葬儀費用は一度こちらで全額立て替え、後日、後見人の方からお振込みいただきました。故人様が、「家族には心配をかけたくない」と後見人を立てられたようですが、葬儀の打ち合わせにも後見人がいらっしゃったことでスムーズにお話も進みました。
故人様の想いも叶えられ、ご家族との金銭トラブルなどもなく、安心してお見送りできたと思います。』
(山田)
また花葬儀では、後見人が間に入っていただくかたちでの「葬儀の生前契約」にも対応しています。
『生前に弁護士を後見人としていた故人様のご家族から、生前契約をしたいと花葬儀にご連絡をいただきました。他社では「できない」と断られたとおっしゃっていました。そこで私たちは、ご連絡をいただいた当日の午後に、ご家族と後見人の方と一緒に打ち合わせをおこない、ご家族にも納得いただける見積書を作成しました。その流れで夕方には葬儀契約書を取り交わしたものを家庭裁判所に送り、無事に受理されたということもあります。』
(山田)
このように、弊社「花葬儀」は、お問い合わせをいただいた時点で事情を把握いたしますので、葬儀で大きなトラブルが起きたことはありません。
トラブルの事例
一方で、成年後見人を立てた場合にどのような問題やトラブルが想定されるのでしょうか
成年後見人がいる場合、相続税対策が難しい
一番効果的な相続税対策は、生前贈与をすることですが、成年後見制度の運用上、被後見人の財産を減らすことは相反することであると、門脇さんは明かします。
「家庭裁判所では、とにかく“被後見人の財産を減らさないこと”を重視するので、厳しい制約があるといえるでしょう。」 (門脇さん)
急に家族が倒れて意思疎通がとれなくなったら、その時点で相続税対策をしにくくなってしまうそうです。「これは、今の法律上の不備だと思います」(門脇さん)
葬儀で起こった家族間のトラブル
また、ご親族がいる場合は、葬儀の段階でトラブルが起こることもあるそうです。
『以前、親族間で揉めていた被後見人の方から、「息子は葬儀に呼ぶな」と言われたことがありました。その方には介護をしてくれるお孫さんがいましたが、息子さんとは仲が悪かったようです。
そこで私は本人の意思どおり、知らせないことに決めました。あとで、「実の息子に知らせないとはどういうことだ」と言われましたが、どうしようもない。そこで呼んだとしたら、息子さんとお孫さんとの関係が悪化してしまいます。そのあたりの判断は非常に難しかったです。』
(門脇さん)
成年後見人選びの注意点
弁護士や司法書士などの専門家が成年後見人になる場合、候補者名簿から選ばれます。ですが、信頼できる専門家が、名簿の中から見つかることは難しいこともあるようです。
『名簿に載っている司法書士のなかには、経験がない人もいます。結果、ご家族とコミュニケーションをとれない、「財産を減らしちゃいけないから生前贈与は一切だめです」と言われ、ご家族がなにもできなくなった、などの話も実際に聞きます。』
(門脇さん)
では、どのような人が「信頼できる成年後見人」なのでしょうか。
『私なりの考え方ですけど、「法律論でしゃべらない人」でしょうか。家族間のトラブルは、法律の問題ではなく、「感情の問題」なんですよね。』
(門脇さん)
『法律上は「兄弟は全員平等」でも、家族に対する役割は兄弟間でも違うんですよ。家族というのは、それぞれの役割によって成り立っています。それが単純に法律上の割合で相続が決まるっておかしい。法律を前提にサポートをする必要はありますが、法律論をかざして解決できるとは限らないのです。』
(門脇さん)
信頼できる成年後見人の見つけ方
「よい成年後見人を見つけるには、事前に準備することがなにより大切。」と、門脇さんは強調します。また、専門家とのコネクションがあると、その方を候補者として指名することができるので、選ぶときに安心できるそうです。
『信頼性があると感じられる人は、簡単には見つかりません。急に探そうと思っても目の前にいる人しか選べず、事実上の選択肢がないこともあるでしょう。ただ、ある程度先を見越して、準備をしていればそれなりの人に会えるかもしれません。自分の家族のリスクを知り、どういう専門家が必要かをあらかじめ確認したうえで、いろんな人に相談するとよいでしょう。』
(門脇さん)
『あとは身近な方からの口コミです。直接専門家の知り合いはいないとしても、専門家を知っている方が身近にいれば、紹介してもらうのもよいでしょう。』
(門脇さん)
おわりに
「終活」として、亡くなる前の準備をする人はいるものの、「認知症になったときを想定している人はまだまだ少ない」と門脇さん。「もし自分が認知症になったら……」というイメージは湧きづらいかもしれませんが、もしものときのために将来を見据えて、事前にリスクと解決策を把握することはとても大切です。
弊社「花葬儀」は、葬儀だけではなく、終活に関する様々なお悩みも専門家のスタッフがお答えしています。また、エリア別に弁護士、司法書士、行政書士のネットワークがあり、無料でご相談いただけます。ご不安、ご不明な点がありましたら、いつでもお気軽にご連絡ください。
中央大学法学部卒業。「相続法務 成城事務所」代表司法書士、株式会社絆コーポレーション代表取締役、東京司法書士会世田谷支部支部長。平成19年に相続専門の司法書士事務所を設立。
相続や成年後見が絡む複雑な権利関係を解消しながら、財産承継のコンサルティングを行い、現在累計依頼件数700件を超える。また、司法書士の現場で日々感じる「両親の大切さと先祖への感謝の気持ち」を体現化させるため、家系図を世に広める活動を展開している。花葬儀の相続相談室の顧問を担当。