エンバーミングとは?目的や流れ、費用、メリット・デメリットを解説します
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- 【 葬儀・葬式の基礎知識 】
大切な方が亡くなったとき、安らかに眠るお顔を最後に見たい、肌に触れたいと望む方もいるでしょう。そのような望みを叶える手段として、「エンバーミング」というものがあります。エンバーミングは、日本では馴染みがなく、映画やテレビドラマでも耳にしたことがある程度で、その詳しい内容まではご存知ない方が多いかもしれません。
今回は、エンバーミングの目的や、方法(流れ)、費用、メリット・デメリット等についてご紹介します。
【もくじ】
1.エンバーミングとは?遺体防腐のための特殊技術
エンバーミングは、遺体防腐を目的とした特殊技術です。その詳細についてここでご紹介します。
エンバーミングの概要
エンバーミングとは、消毒・殺菌・防腐・修復・保存を目的に、ご遺体に施す特殊な処置のことをいいます。ご遺体の消毒・殺菌を行ない、血液を防腐剤に完全に入れ替えることで腐敗防止となるので、腐敗によって引き起こされる感染症を防ぐこともできます。
また、防腐剤によりご遺体を長く保つことができ、見た目も維持されるため、事情があって葬儀や火葬まで期間が空いてしまう場合にも適した処置といえます。
火葬が主流である日本ではエンバーミングは未だ馴染みがありませんが、世界に視野を広げると、その歴史は長く、土葬を行う国では一般的な処理としてエンバーミングが行われています。
エンバーミングの特殊処置
エンバーミングは、ご遺体の小切開、および薬液の注入などの処置も行うため、「エンバーマー」と称されるライセンス保持者が処置を行います。
エンバーミングの処置は、以下の3つの行程に分けられます。
- 1.腐敗を防ぐための処置
- 2.清潔を維持するための処置
- 3.修復するための処置
いずれも特殊処置であり、防腐剤の色合いで、故人様を血色のよい顔色に甦らせることもできます。
エンバーミングの処置時間
エンバーミングの処置時間は、故人様の状態や、処置内容によっても異なりますが、おおよそ3~4時間の所要時間で行われるのが一般的です。
ただし、処置以外にも、安置していた場所から、エンバーミングを行う施設までの搬送に時間を要することがあるため、搬送時間についても搬送手段と併せて確認しておくことをおすすめします。
2.エンゼルケア、死化粧、湯灌(ゆかん)はエンバーミングとどう違うの?
エンゼルケア、死化粧、湯灌は、それぞれ故人様のお身体に何らかの処置を行うことですが、それぞれの特徴とエンバーミングとの違いをご説明します。
エンゼルケアとの違いは?
エンゼルケアとは、死後、お体の傷口を手当てしたり、髪型、表情や顔色、装いを整えたりするなど、故人様の尊厳を守るために、その人らしい容貌に外見を整えることをいいます。
【エンゼルケアの一般例】
- ・医療器具を外す
- ・口腔ケア、鼻腔ケアを行う
- ・全身の清拭をする
- ・目や口を閉じる
- ・服の着替えを行う
- ・髪型を整え、化粧を行う
エンゼルケアは病院の看護師や、葬儀社スタッフが処置を行うのが一般的です。エンバーミングに比べ、エンゼルケアは表面的に姿を整えるために施す処置といえるでしょう。
※エンゼルケアの詳細は、こちらの記事が参考になります。
https://www.hana-sougi.com/blog/angel_care/
死化粧との違いは?
死化粧は前述のエンゼルケアに含まれる処置で、通常のお化粧方法と同じようにご遺体にお化粧を施します。国家資格等も必要ないため、葬儀社のスタッフやご遺族が死化粧を担うケースもあります。
一方、エンバーミングは医療器具を外す、傷口の縫合、胃の残留物、排泄物の処理など、医療的処置が含まれるため、医師や看護師が行います。エンバーミングが衛生保全を目的としているものであるのに対して、死化粧は外見を美しく整える処置といえます。
湯灌との違いは?
湯灌とは、納棺前に故人様の身体をぬるま湯またはアルコールで清めることです。エンバーミングは殺菌消毒、腐敗防止を目的に施す処置であるのに対し、湯灌は、ご遺体を綺麗にするという衛生面と併せて、この世での穢(けが)れを洗い流して成仏できるようにと宗教的な儀式の意味も含めて行なわれます。
湯灌では、「逆さ水」とよばれる水にお湯を足す、という日常とは逆の方法で温度調整をするなど、特別な作法で行われます。
3.エンバーミングが必要なケースと目的は?
日本では、火葬が主流のため、エンバーミングを行うケースは少数といえます。それでは、エンバーミングが必要なケースとはどういうケースなのか、ここでご紹介します。
火葬するまでに時間がかかるケース
様々な事情により、逝去から火葬するまでに数日から数週間の時間を要する場合があります。しかし、人間の身体は逝去後すぐに腐敗が始まります。葬儀・火葬までの期間は、ドライアイスや専用の保管庫を使用しますが、それでも腐敗は少しずつ進みます。
一方、エンバーミングの処置は、ご遺体内の血液と防腐剤を完全に入れ替えるので、腐敗を防止することが可能となります。そのため、逝去後、葬儀・火葬までに時間がかかるケースでは、腐敗防止を目的としてエンバーミングが施されるケースが多いでしょう。
また、航空機を利用してご遺体を移送する場合は、ご遺体は貨物として扱われます。機内の貨物室では温度管理も難しく、特に海外移送の場合、エンバーミングを条件としていることも多いので、原則として航空機での移送時にはエンバーミングが必要だと考えておきましょう。
感染症(死因)の可能性があるケース
故人様の死因が感染症である場合でエンゼルケアを行うケースにおいては、危険が伴います。それを担当する人や、ご遺体に触れる、または安置場所で一緒に最期の時間を過ごす可能性のあるご遺族が、ご遺体内のウイルス、または細菌から感染する危険があるからです。さらには感染症を蔓延させてしまう危険もあります。
しかし、エンバーミングは、消毒・殺菌、腐敗防止の処置を施すので、感染症を引き起こす病原菌の数が激減するという実験結果が発表されています。そのため、現代では、感染の危険が伴うケースは、エンバーミングを施す必要があると考えられています。
参考元:
一般社団法人 日本遺体衛生保全協会 http://www.embalming.jp/
遺体の損傷が激しいケース
事故や長い闘病生活で、元気だったころのお姿とかけ離れた姿で亡くなってしまうことも少なくありません。そのようなご遺体の損傷が激しいケースでも、エンバーミングは、傷の修復や、整形が可能です。
エンバーミングにより、故人様が元気だった頃の姿に近づけることで、ご遺族や、身近な方々のケアにも繋がり、安堵の気持ちで見送ることができるようになるでしょう。
4.エンバーミングのメリット・デメリット
ここでは、エンバーミングを施すメリットとデメリットについて、具体例を挙げてご紹介します。
エンバーミングのメリットは?
葬儀までにかかる日数を気にする必要がない
エンバーミングは、ご遺体の殺菌、消毒、防腐処置を行います。ご遺体の腐敗の進行を遅らせることができるため、何らかの事情で葬儀の日程まで間が空く場合でも、ご遺体の状態を気にする必要がありません。
故人様に安心して触れることができる
エンバーミングは、ご遺体の殺菌、消毒を施します。もしも故人様が感染症にかかっていたとしても、病原菌を殺菌することができるので、ご遺体に触れることが可能です。そのため、ご遺族が、最後に故人様のお体に触れ、故人様のお気に入りの服を着せることができます。
元気だったときの姿、自然な姿でお別れができる
エンバーミングでは、闘病生活中に痩せてしまった、事故で大きな傷ができてしまった等のご遺体の状態を修復し、生前の元気だった頃の姿に近づけることができます。そのため、ご遺族をはじめ故人様を知る方々が、少しでも悲しみを癒し、穏やかな気持ちで故人様を見送ることができることもメリットの一つといえるでしょう。
ドライアイスを使用する必要がない
エンバーミングは、ご遺体の防腐効果があるので、ドライアイスを使用する必要がありません。しかし、エンバーミングを施さない場合は、ご遺体にドライアイスを当てて、ご遺体の温度が上がらないようにする必要があります。
葬儀までの期間が長ければ長いほど、ドライアイスを常に補充して、冷えている状態を保たなければなりませんが、ドライアイスを当てても、ご遺体の腐敗は少しずつ進んでしまいます。エンバーミングを施すことで、ドライアイスを使用しなくても、防腐できるという点はメリットといえます。
エンバーミングのデメリットは?
処置に時間がかかる
エンバーミングは専用の施設で行われます。お住まいの都道府県によっては、エンバーミングを行う施設がないところもあるため、その場合は前述の通り、3〜4時間の処置時間に加え、施設までの往復の搬送時間がかかります。
故人様と過ごす貴重な時間の中で、ご遺体と離れなければならないことに抵抗を感じる方もいるでしょう。
費用が発生する
エンバーミングは専門的な技術が必要となる処置であるため、別途費用が発生します。エンバーミングを施さない場合には、発生しない費用であるため、この点はエンバーミングのデメリットの一つといえるでしょう。費用に関する詳細は、後述します。
遺体にメスを入れることになる
エンバーミングは、ご遺体を切開し、血液を抜くなどの処置を行うため、ご家族などから反対意見が出るケースがあります。また、ご遺体の修復がひとつの目的ではありますが、ご遺体に傷をつけるというイメージが先行してしまうと、エンバーミングを拒否する意見が出ることもあります。考え方によっては、ご遺体にメスを入れることがデメリットになることもあるでしょう。
5.エンバーミングの流れは?
エンバーミングは特殊技術を用いた処置ですが、その処置の流れを簡単にご紹介します。
1.必要な書類を準備しエンバーミング施設に提出する
エンバーミングを行う施設では、一般的に「死亡診断書(死体検案書)」「エンバーミング依頼書(同意書)」の提出を求められるので、それらの書類を準備します。
さらに、エンバーミングを行うにあたり、故人様の生前のお写真があると、お顔の修復や死化粧をするのに参考になるので併せて提出することをおすすめします。
2.遺体を搬送する
ご自宅、病院、安置施設などご遺体を安置していた場所からエンバーミングを行う施設に搬送をします。
3.洗浄、消毒作業を行う
ご遺体の状態を確認して、お身体の表面の洗浄、消毒を行います。
4.洗顔、洗髪を行い、表情を整える
ご遺体の洗顔や洗髪が行われ、保湿剤が塗布されます。ご遺族のご要望にあわせて髭剃りなども行われ、故人様の表情を整えます。
5.遺体の一部を切開し防腐保全処置を行う
ご遺体の一部が小切開され、血液や体液を排出し、エンバーミング保全液(防腐固定液などの薬品)を動脈から注入します。一般的に、切開するのは1~1.5㎝の小さな範囲で、衣服に隠れる鎖骨~胸部と腹部の2か所です。
6.残置物を除去し防腐剤を注入する
胸部および、腹部から、食道や胃、腸など消化器官、肺や気道の呼吸器官など体内に残留した残置物を除去し、防腐剤を注入します。
7.縫合、修復を行い洗浄する
エンバーミングを行う過程で切開した箇所を縫合します。事故などの損傷や手術の傷跡がある場合には、このタイミングで修復がなされ、その後お身体全体の洗浄が行われます。
8.衣装を着せて整髪する
ご遺族のご指定の衣装や、白装束など宗旨にあわせた死装束を着せます。その後、改めて表情を整え、整髪が行われます。
9.死化粧を行う
ご遺族のご要望にあわせて死化粧を行います。ご要望が無い場合には自然に見えるように化粧を施し、生前のお姿に近づけます。
10.納棺を行う
納棺は、エンバーミング施設ではなく、ご自宅や安置所などに搬送してから行われることもあります。葬儀社立ち合いのもとで行われるケースが多いでしょう。
11.安置先に搬送する
エンバーミングを行なった施設から、ご自宅もしくは安置所などの安置先へ搬送します。葬儀社が搬送のサポートもしてくれるので、相談してみるとよいでしょう。
6.エンバーミングで保存できる期間は?
エンバーミングでは防腐処置をされるので、ご遺体からの匂いを消臭する効果があります。また色素配合の作用により顔色も良くなります。腐敗防止剤が注入されるので、長期間でも腐敗はしませんが、空気に触れている皮膚は次第に乾燥し、ご遺体の状態は変化します。
一般的に日本で行われているエンバーミング方法における保存期間は2週間程度とされ、日本遺体衛生保全協会(IFSA)では「50日以内に火葬をおこなうように」との基準が定められています。
7.エンバーミングの注意点
エンバーミングは、故人様の実際のお体に特別な薬液を注入して行う処置です。お体の状態によって、処置後に変色やむくみが残る可能性があります。また、傷や手術跡については、修復を目指しても損傷具合により限度があります。
エンバーミングは、お身体の腐敗や臭いを悪化させないために行う処置であり、生前とまったく同じ外見には戻せないことを理解しておきましょう。
8.エンバーミングの費用はどのくらいかかるの?
日本人にとって馴染みのないエンバーミングですが、どのくらいの費用が必要になるのか、一般的な相場をご紹介いたします。
エンバーミングの費用相場は?
エンバーミングの費用は、葬儀費用とは別にかかります。専門的な技術が必要になるため、その費用は決して安くはありません。費用相場は、15万円から25万円といわれており、ご遺体の状態により異なります。
その他にかかる費用は?
安置施設からエンバーミングを行う施設まで、ご遺体を搬送する際の搬送費(往復)も必要です。
エンバーミングは葬儀社に依頼できることが多く、その際に搬送の手配もしてくれるでしょう。エンバーミングを依頼する際には、搬送費も併せて確認しておくことをおすすめします。
9.エンバーミングに関するQ&A
A:エンバーミングを行う際には以下の書類を準備しましょう。
1.エンバーミング処置依頼書
葬儀社が用意する「エンバーミング処置依頼書」に、エンバーミングを行う故人様の二親等以内の親族がサインをする必要があります。
2.死亡診断書(死体検案書)のコピー
亡くなったときに診察した医師に書いてもらう死亡診断書のコピーが必要です。自死や犯罪性のある死因の場合には、警察が介入し検案が行われることがあります。この場合には監察医や警察医により死因の特定がなされ、死体検案書が発行されるので、そのコピーが必要となります。
A:エンバーミングは、ご遺族が安心して故人様とお別れができるように、ご遺体からの感染リスクや腐敗の進行を防ぐ目的として行います。
また、IFSA(一般社団法人 日本遺体衛生保全協会)では、エンバーミングが節度をもって行われるように、適切な基準を定めています。医学的観点から適切な処置がされるので、死体損壊罪(刑法190条)には抵触しません。
A:まずは葬儀社にエンバーミングを希望している旨、相談しましょう。葬儀の日までに期間が空く場合には、葬儀社のほうからエンバーミングのご提案を差し上げることもあります。
花葬儀では、葬儀前の事前相談において、エンバーミングを行なった方がよいかどうかのご相談も承っております。ご希望の際には、エンバーミングだけでなく、搬送のお手配もしますのでご安心ください。
A:エンバーミングの処置件数は年々増加しています。
以下の図表2「全国エンバーミング処置件数の推移」を見ると、1988年から2020年まで、増加し続けていることがわかります。
出典1:図表2 全国エンバーミング処置件数の推移
掲載元:株式会社サン・ライフ Webサイト 新たなステージに向かうエンバーミング最新事情 12ページ
URL:https://www.sunlife.jp/pdf/funeralbusiness.pdf(参照2013/11/18)
また、上記「図表2」の2020年の処置数は53,041件ですが、Webサイトの記事『週刊女性PRIME』によると、2021年の処置件数は59,440件でした。1年間で、6,399件も増加したことがわかります。
一般社団法人『日本遺体衛生保全協会』(以下、IFSA)によると、エンバーミングの実施件数は近年、増加傾向にある。2021年には5万9440件に達し、2010年の2万1310件から倍以上となった。
出典2:「きれいな姿で天国へ、遺体を修復するエンバーミングで遺族の願いを叶える魂の“おくりびと”」
掲載元:週刊女性PRIME 2022年7月12日号
URL:https://www.jprime.jp/articles/-/24374?display=b(参照2013/11/18)
なお、近年では、新型コロナウイルス感染症が死因の場合、ご家族と対面できずにご遺体が火葬されてしまうことを懸念し、ご家族がエンバーミングを希望したケースも多く見られたようです。
10.エンバーミングとはご遺族の心に寄り添うグリーフケアのひとつ
大切な方を亡くしたときの悲しみと喪失感は、そう簡単に癒えるものではありません。事故や急病等で突然亡くなってしまったという状況であれば、心の準備も整わず、なおさらのことでしょう。そのような状況で、ご遺族の心を少しでも癒せるとすれば、最期に故人様の安らかな顔を見ながら故人様の人生を讃え、生前の感謝を思いながらお見送りをすることかもしれません。
エンバーミングは、生前と変わらぬ故人様のお顔を見て、肌に触れて、最期のお別れをしたいというご遺族の望みを叶えるための手段です。葬儀を行なう前に、エンバーミングを選択肢のひとつとして考えておくと、葬儀の内容も幅が広がります。そして、故人様を見送るご遺族の気持ちにも、少なからず影響があることでしょう。
花葬儀では、エンバーミングのご相談、お手配を承っております。ご状況にあわせたご提案を差し上げておりますので、まずはお問い合せください。