緩和ケアを在宅で受けるための基礎知識~準備から費用・看取りまでのプロセスを知る

緩和ケアを在宅で受けるための基礎知識~準備から費用・看取りまでのプロセスを知る

在宅での緩和ケアを希望する方は多くいらっしゃいます。在宅緩和ケアを円滑に進めるためには、どのような準備が必要なのでしょうか。

今回は「在宅緩和ケアの基礎知識」をメインに、緩和ケアの仕組み、準備するもの、使える制度、費用、プロセスなどをご紹介します。「緩和ケアを受けるようすすめられた」「家族のために在宅での緩和ケアを検討している」という方はぜひ最後までお読みください。

1.在宅緩和ケアとは

在宅緩和ケアとは

「緩和ケア」とは、がんや心不全など、重い病気によって苦しみを抱えている患者とその家族に対して行われるケアを指します。一般的なケアの種類は以下の通りです。

【緩和ケアの内容】
ケアの種類 内容
痛みや症状のケア 病気によって引き起こされる苦痛や症状を、薬物・非薬物治療を用いて緩和する
精神的ケア 患者本人やご家族が抱える不安を、カウンセリングや心理療法を用いてサポートする
社会的ケア 経済的な問題や社会復帰などへの不安を、地方自治体と共にサポートする
スピリチュアルケア 病気や死への恐れを抱く患者やご家族に対し、医療者や福祉分野がケアを行う

出典:「わが国におけるWHO緩和ケア定義の定訳─デルファイ法を用いた緩和ケア関連18団体による共同作成」
Palliative Care Research,2019年14巻2号p.61-66
著者:大坂 巌,渡邊 清高,志真 泰夫,倉持 雅代,谷田 憲俊
URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspm/14/2/14_61/_html/-char/ja

緩和ケアのうち、住み慣れたご自宅で受けるものを「在宅緩和ケア」と呼びます。

緩和ケアと聞くと「余命が近い」とイメージする方もいらっしゃるかもしれませんが、決してそうではありません。重い病気による身体的・精神的苦痛は診断後の早いうちから現れるため、緩和ケアは早い段階から治療と並行して行われます。

2.緩和ケアを受ける場による違い~在宅・通院・入院~

緩和ケアを受ける場による違い~在宅・通院・入院~

緩和ケアは、通院先や入院先、在宅で受けることが可能です。それぞれの場所でケアを受ける場合のメリット、デメリットをご紹介します。

通院で受ける緩和ケアのメリット・デメリット

通院での緩和ケアは、病気の治療のために通っている病院や、緩和ケア外来のある病院で行われます。通院治療は、体調が比較的安定している患者さんに適しています。通院タイプのメリット・デメリットは以下の通りです。

【通院タイプのメリット・デメリット】
メリット 入院の必要がない
デメリット
  • ・通院できる体力がないと利用できない
  • ・通院のための交通費がかかる
  • ・医療期間によっては緩和ケア外来がない

入院で受ける緩和ケアのメリット・デメリット

入院して受けるタイプの緩和ケアは、入院している病棟や、「緩和ケア病棟」と呼ばれる場所で行われます。入院タイプのメリット・デメリットは以下の通りです。

【入院タイプのメリット・デメリット】
メリット
  • ・急な痛みや不安にも対応してもらいやすい
  • ・緩和ケア病棟であれば、日常生活に近い暮らしができる
デメリット
  • ・自宅で過ごすことができない
  • ・通院や在宅に比べて費用が高い

在宅で受ける緩和ケアのメリット・デメリット

在宅緩和の最大のメリットは、住み慣れた自宅で過ごせることです。ご家族と過ごす時間や、好きなことをする自由な時間は、大きな安らぎを与えてくれるでしょう。また、通院にかかる交通費や入院費用、病院での待ち時間といった負担がないこともメリットです。

一方デメリットとしては「医療従事者による素早い対応が難しいこと」「訪問診療や訪問看護など、在宅サービスを整えなければならないこと」が挙げられます。

【在宅緩和ケアのメリット・デメリット】
メリット
  • ・住み慣れた自宅で過ごすことができる
  • ・通院や入院にかかる金銭的・時間的負担がない
  • ・家族と過ごす時間が多く取れる
デメリット
  • ・必要に応じて在宅サービスを契約しなければならない
  • ・緊急時の素早い対応が難しい

在宅緩和ケアを受けるご本人とそのご家族が穏やかに過ごすためには、緩和ケアへの理解を深め、適切なサポートを受ける必要があります。在宅緩和ケアのための準備や必要なものは「4.在宅緩和ケアを実施するための準備・必要なもの」で取り上げますので、そちらをご覧ください。

3.在宅緩和ケアと余命の関係

緩和ケアで特に気になるのが「余命との関係」でしょう。緩和ケアは病気の根絶を目指すものではなく、病気による身体的・精神的苦痛を和らげることを目的としています。したがって「緩和ケアを行う=余命を伸ばすこと」ではありません。

「在宅で緩和ケアを受けると生存期間が短くなるのではないか」と心配される方もいらっしゃるでしょう。この疑問について、筑波大学が2023年に興味深い調査結果を発表しています。調査は進行がんの患者さんを対象に、「最期の時間を過ごす場所が生存期間に与える影響」を分析したものです。

調査では「在宅を選択した人のほうが生存期間は長い」傾向にあることがわかりましたが、亡くなるまでの症状の変化や、治療の影響までは考慮されていないため、「在宅で緩和ケアを受けたほうが長生きできる」と結論づけることはできません。

しかし、少なくとも「自宅で過ごすことが必ずしも生存期間を短くするわけではない」ことを示しているとされています。

出典:「Comparison of survival times of advanced cancer patients with palliative care at home and in hospital.」(自宅と緩和ケア病棟で過ごす進行がん患者の生存期間の比較)
PLOS ONE,2023年4月13日,10.1371/journal.pone.0284147
著者:Hamano J,Takeuchi A,Mori M, Saitou Y, Yamaguchi T,Miyata N, et al.
URL:https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0284147

4.在宅緩和ケアを実施するための準備・必要なもの

在宅緩和ケアを行うにあたっては、事前の準備が欠かせません。
こちらでは、在宅緩和ケアを行うご家庭で進めるべき準備や、ケアに必要なものについて解説します。

ご本人とご家族それぞれの意向をまとめておくことが大切

在宅緩和ケアを受けるご本人と、そのご家族の意向が異なったままでは、後悔や失敗を経験してしまいやすくなります。

まずは、ケアの内容や緊急時の対応について、以下の例を参考にお互いの考えを話し合ってみましょう。

【治療・ケアの方針】

  • ・積極的な治療を希望するか
  • ・症状緩和、精神的ケアのどちらを中心としたケアにするか
  • ・延命措置はどこまで行うか

【療養場所】

  • ・状態が悪化したときに、入院を希望するか
  • ・最期を迎える場所として、自宅と病院のどちらを希望するか

在宅緩和ケアを始める前に、「残りの時間をどのように過ごすか」「自分の意思が伝えられない状態になったらどうするか」などを考えておくことが、非常に大切です。

医師・ケアマネージャーとも話し合う

在宅での緩和ケアは、以下をはじめとした専門職がチームとなって支えてくれます。

【在宅緩和ケアを支える主な専門職】
専門職 内容
医師 診断、医療処置 など
看護士 医師のサポート
ケアマネージャー 在宅生活のサポート
ソーシャルワーカー 経済的な問題や社会的不安をサポート
管理栄養士 食事のアドバイス
薬剤師 薬の説明、服用のアドバイス
理学療法士
作業療法士
言語聴覚士
患者の自立した生活をサポート
心理士 心理的負担へのサポート

ご本人とご家族の意向は、緩和ケアをサポートしてくれる医師やケアマネージャーとも共有した上で最善の内容を相談しましょう。「サポートチームと連携が取れている」「いつでも相談しやすい環境が整っている」といった自覚は大きな安心を生み、病気に対するストレスを和らげてくれます。

利用できるサービスも知っておく

ご本人の状態や自宅の環境によっては、介護サービスを利用することになります。介護が必要な場合は、「要介護認定」の申請を忘れずに行いましょう。一定の条件を満たせば介護保険が利用できるようになるため、費用の負担軽減が期待できます。

【在宅緩和ケアにおける介護保険制度の仕組み】
仕組み 概要
条件
  • ・要介護認定を受けた65歳以上
  • ・医師により回復の見込みがないと判断された40~64歳のがん患者
使えるサービス 訪問介護/訪問看護/訪問入浴介護/福祉用具貸与/特定福祉用具販売 など
自己負担割合 1割~3割

※介護保険については「介護保険制度を解説」の記事が参考になります。

介護保険でもまかなえないほど費用がかかる場合は、他の制度を併用することで負担額を抑えることができます。詳しくはこの後の「5.在宅緩和ケアにかかる費用」でご紹介しますのでそちらをご覧ください。

自宅の環境を整備する

在宅緩和ケアを受ける方と、支えるご家族双方が過ごしやすいよう、自宅の環境を整えることも大切です。

在宅緩和ケアをより快適にするための設備や自宅の整備ポイントは以下を参考になさってください。

【在宅緩和ケアで備えておきたい道具、環境】
項目 詳細
介護福祉用具 介護用ベッド、床ずれ防止用具、吸引機、車いす、ポータブルトイレ、歩行器 など
衛生材料 ガーゼ、包帯、オムツ など
整備
  • ・階段や浴室に手すりをつける
  • ・車いす用スロープを作る
  • ・不要なものを処分し、床に物を置かない
  • ・ケアを受ける方の部屋に見守りカメラを設置する

在宅介護に対する心構えを行う

在宅緩和ケアを選択した場合、家族による介護が必要になることが多くあります。在宅での介護はさまざまな専門家がサポートを行ってくれますが、ご家族も日常生活のサポートや、医療処置の補助、精神的なサポートなどを担うことになります。

例えば日常生活のサポートとしては、「歩行介助」「食事介助」「ベッドから車いすへの移乗」などが挙げられます。他にも、介護のための時間的な制約、リフォーム費用や介護用具などの購入による経済的負担も必要です。

また在宅緩和ケアでは、日々変化していくご家族の様子を間近で見守ることになります。「病気が進行したらどのような症状が見られるのか」を知り、主治医や心理士などに相談しながら、心の準備をすることが大切です。

5.在宅緩和ケアにかかる費用

在宅緩和ケアにかかる費用

緩和ケアには多くの費用がかかりますが、その一部は保険や制度でまかなうことができます。

ケアを受ける方の年齢、地域や利用するサービス、介護認定の種類などによって異なりますが、在宅緩和ケアにかかる費用は1ヶ月あたり10万円程度が相場だといわれています。在宅緩和ケアにかかる一般的な費用項目と、制度の適用範囲は以下の通りです。

【在宅緩和ケアにかかる費用項目と利用できる制度】
項目 費用負担 利用できる制度、保険
訪問診療 1割~3割 医療保険
訪問看護 医療保険または介護保険
訪問介護 介護保険
介護用品の購入・レンタル 介護保険
薬の処方 医療保険
衛生材料費
(ガーゼや包帯など)
全額自己負担 ×
医療従事者が訪問する際の交通費 ×
その他特別な医学管理、生活援助 ×

介護保険と医療保険以外にも、費用が軽減できる以下の制度があります。

・確定申告の医療控除
かかった医療費を確定申告で一部控除できる制度
・高額療養費制度
自己負担上限額を超えた医療費を払い戻す制度
・生活保護
国民の最低限度の生活を保障するために国や自治体が金銭面で支援する制度

適用範囲や金額の詳細は、かかりつけ医やソーシャルワーカーにご確認ください。

6.在宅緩和ケアから看取りのプロセス

緩和ケアでは、病気の進行によってご本人の容態が著しく悪化し、死期を想定しなければならなくなるケースもあります。死期が近づいた人を最期まで見守ることを「看取り(みとり)」といいます。

在宅緩和ケアから看取りまでの一般的なプロセスは以下の通りです。

【在宅緩和ケア~看取りまでの流れ】

  1. 1.在宅緩和ケア開始前の準備
  2. 医療チームの編成、自宅の環境整備など

    次の流れ
  3. 2.緩和ケアスタート
  4. 定期的な訪問診療、介護、ケア

    次の流れ
  5. 3.患者の容態変化
  6. ・食事量や水分摂取量の減少 など
    ・ご本人とご家族の精神的・心理的サポート

    次の流れ
  7. 4.終末期宣言
  8. ・医師による終末期の宣告
    ・医師、ケアマネージャー、訪問看護師などによる看取りチーム結成
    ・看取りに関する同意書作成

    次の流れ
  9. 5.さらなる容態変化
  10. 【例】
    ・意識レベル低下
    ・せん妄
    ・血圧低下
    ・脈拍の変化
    ・不安定な呼吸
    ・呼吸時の異音
    ・チアノーゼ
    ・排尿量減少
    ・発熱

    次の流れ
  11. 6.死亡
  12. 医師による死亡宣告

ご自宅や介護施設における看取りの流れは、別の記事でより詳細を解説しておりますので、そちらも参考になさってください。

看取りはご家族にとって大変つらい時間ですが、残された時間を後悔なく過ごすために、以下の項目のうち、できることを進めましょう。

・疑問、不安、つらさは積極的に専門家に相談する
・休養をきちんと取る
・ご本人に語りかけたり、身体をマッサージしたりする
・ご家族とこれからについて話し合いの時間を設ける

終末期が宣言されたら、ご家族は葬儀の準備を始めることもおすすめします。「まだ生きているのに葬儀の話なんて…」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、葬儀は決めなければならない事項が大変多い儀式です。亡くなってからでは時間的・精神的余裕が少なく、後悔の残る決断をしてしまうかもしれません。

終活に役立つおすすめ本」などを活用して、事前に情報を収集することも検討してください。また「遺影用の写真選定」や「葬儀社へ相談」など、できる範囲のことに取り組んでみましょう。

7.在宅緩和ケアで穏やかな時間をより長く過ごすために準備を始めましょう

在宅緩和ケアは、重い病気による苦痛や不安を取り除くために、自宅で行われるケアを指します。在宅緩和ケアを選択する際は、患者さんご本人とご家族、緩和ケアをサポートしてくれる専門職で連携を取り、必要な準備を整えましょう。

在宅緩和ケア中に終末期を宣告された場合は、花葬儀までご相談ください。花葬儀は、ご家族の想いを傾聴し、いつまでも心に残るご葬儀をプロデュースする葬儀社です。大切な方のお人柄を表したオーダーメイド花祭壇は、これまでたくさんのお客様に支持されて参りました。

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