喪服のパンツスーツはマナー違反?多様性が認められる時代の喪服事情

喪服のパンツスーツはマナー違反?多様性が認められる時代の喪服事情

喪服としてパンツスーツを女性が着用することへの見方が、近年、変わりつつあるのをご存じでしょうか。

普段パンツスタイルを好む女性の中には、「葬儀に参列するときもパンツスーツを喪服として着用したいけど、それってマナー違反なの?」と悩む方もいらっしゃいます。

そこで今回は、喪服としてのパンツスーツ着用はマナー違反にあたるのか、普段葬儀をお手伝いしている葬儀社の立場から解説します。多様性が重視される現代において、どのように喪服のあり方を考えたらよいのかもご紹介しますので、ぜひご一読ください。

1.喪服のパンツスーツはNG?ネット上でも賛否両論

「喪服を買おうと思って検索したら、葬儀にパンツスーツは非常識だという記事が出てきたけど、おかしいよね」というある女性のSNS投稿が、大きな話題を呼んだことがあります。

この投稿に対し、「多様性が重視される現代で、パンツスーツを喪服として着ることが否定されるのは、時代遅れだ」とする賛成意見と、「パンツスーツはマナー違反。喪服にはルールがあるのだから、それを守るべき」とする反対意見がネット上で交わされました。

インターネットで調べてみると、確かに「女性が喪服としてパンツスーツを着用すると、マナー違反となることがある」とする記事が多く見受けられました。そのような中でもSNSにおいて賛否両論となった背景には、「女性のパンツスーツは喪服として本当に妥当なのか?」という疑問が、人々の興味関心を引いたからだと思われます。

2.喪服のパンツスーツが否定される背景は?

そもそも、なぜ女性が喪服にパンツスーツを着用することを非常識とする意見があるのでしょうか。これには、喪服の「格式」という考えが深く関わっています。
ここからは、喪服の格式と、その中でのパンツスーツの位置づけについて、詳しく解説します。

喪服には格式がある

喪服は格式別に「正喪服」「準喪服」「略喪服」の3種類に分かれており、立場やシーンによって選ぶのがマナーとされています。

葬儀においてパンツスーツを着用したいと考えた際は、喪服の格式についての知識を得た上で、ご自身で判断することが大切です。喪服におけるそれぞれの格式について、ここから詳しく解説します。

正喪服

正喪服は、最も格式の高い喪服です。喪服における「格式」という言葉は、一般的には着用する場の正式度や儀式の重要性を指します。

和装と洋装があり、基本的には、喪主を務める方や、故人様からみて3親等までのご親族が、最もその場にふさわしい正式な装いとして正喪服を着用するとされています。

下記に、一般的な正喪服の服装例を挙げましたので、参考にご覧ください。

【男性の正喪服の服装例】
男性の正喪服の服装例

和装 黒の紋付羽織袴
羽織は黒の羽二重(はぶたえ)(※1)、五つ紋(※2)
洋装 黒のモーニングコート

※1五つ紋:背中と両軸、両胸の5箇所に家紋が入ったもの
※2羽二重:縦糸と横糸を交互に交差させて織った布の一種

【女性の正喪服の服装例】
女性の正喪服の服装例

和装 染め抜き、五つ紋の黒い着物
洋装 光沢のないブラックフォーマル(ワンピース、アンサンブル)

なお現在では、喪主様や3親等以内のご親族であっても、葬儀において準喪服を選ぶ方が多くなっています。

※喪主の妻が着る服については、こちらも参考になります。

準喪服

準喪服は、正喪服に次ぐ格式です。通夜、葬儀・告別式、法事など、さまざまな弔事で着用する機会があり、一般的な喪服としてのイメージが定着しています。

準喪服は4親等以降のご親族、その他参列者が着るものとされていますが、前述したとおり、最近では喪主様や故人様に近しいご親族も準喪服を着用するケースがほとんどです。

下記に、一般的な準喪服の服装例を挙げましたので、参考にご覧ください。

【準喪服の服装例】
準喪服の服装例

和装 黒のブラックスーツ
洋装 黒のワンピース、アンサンブルなどのブラックフォーマル

※喪服に合わせる小物については、こちらの記事を参考になさってください。

略喪服

略喪服は、3種類の喪服の中で最も格式が低く、急な弔問や通夜、三回忌以降の法要などで着用します。女性の「パンツスーツ」は、この略式に該当するとされています。

【準喪服の服装例】

男性 ダークスーツ
女性 地味なスーツ、ワンピースなど

略喪服は、黒色でなくとも、グレーなどの暗めの色でも差し支えありません。ただし、他の喪服を着るときと同じように、露出は極力抑え、装飾の少ないシンプルなデザインを心がけます。

パンツスーツは格式の低い「略喪服」

喪服における3つの格式の中で、女性のパンツスーツは最も格式の低い「略喪服」に該当します。

「葬儀に参列する場合の一般的な服装=準喪服」というイメージが広く浸透しているため、「パンツスーツで葬儀に行くのはマナー違反」という考えが生まれたのだと推測されます。

一方で、なぜパンツスタイルはスカートより格式が低いとされるのか、疑問を持つ方もいらっしゃるでしょう。

ヨーロッパのドレスコードでは、パンツはスカートに比べフォーマル度が低いと考えられてきました。例えば、2013年までパリには「女性がズボンを着たい場合は、警察署の許可が必要」という条例があったのです。この条例は1800年に制定されたものでしたが、背景には、当時の女性の社会進出を制限する意図があったとされています。

こうした海外のドレスコードの考え方が日本に入ってきた結果、女性のパンツスタイルは格式が低いと見なされるようになったと考えられます。

3.「喪服はパンツスーツでも問題無い」とされる主なケース

参列する予定の通夜・葬儀が格式を重んじるスタンスの場合、略喪服に分類されているパンツスーツで行くと、ご遺族を不快にさせてしまうかもしれません。

しかし、複数のケースにおいては、略喪服であるパンツスーツを着用しても問題ないとされています。略喪服でも問題無いとされているケースについて、こちらで詳しく解説します。

急な通夜の場合

急な不幸の場合は、略喪服であるパンツスーツで参列しても失礼にはあたりません。

急に通夜への招待を受けた場合、喪服の用意が間に合わないことがあるからです。また、準喪服で通夜に参列すると「死に供えていた」と捉えられてしまうこともあるため、「急いで駆け付けた」という意味を込めて、略喪服でもよいとされています。

「平服でお越しください」とご遺族から案内があった場合

「平服」は、冠婚葬祭においては「略喪服」を指しています。ご遺族から「平服でお越しください」と案内があった場合は、略喪服であるパンツスーツで葬儀に参列しても、問題ないでしょう。

高齢者や足に不安のある方の場合

高齢者や足に不安のある方は、喪服としてパンツスーツを選んでも構いません。パンツスーツを履くことによって、転倒の防止や、足腰の冷えによるこわばりなどが減少するようであれば、パンツスーツ着用をおすすめします。

また、怪我や障害があってワンピースやスカートが履きにくい方も、パンツスーツを着ても問題ありません。ご遺族の心証が気になる場合は、事前に事情を伝えておくと安心でしょう。

寒冷地の場合

雪国などの寒冷地での葬儀では、防寒のためにパンツスーツの喪服を着用するケースも多いようです。

葬儀は基本的に空調が調節された屋内で行われますが、スカートとストッキングだけではつらい方もいるでしょう。また、妊娠中の方にとっては、体調管理も重要です。

葬儀中に冷えによる体調不良を起こしてはご遺族の方にも迷惑をかけてしまいますから、体調面を気にされる方は、パンツスーツを着用して参列することも検討してみましょう。

高齢者や足に不安のある方と同様、ご遺族の心証が気になる場合は、事前に事情を説明しておくよいでしょう。

4.喪服のパンツスーツは絶対にダメ?

喪服のパンツスーツは絶対にダメ?

前項にて、「喪服のパンツスーツが問題ない」とされているケースをご紹介しましたが、それ以外では、決して着用してはいけないのでしょうか?

最後に、葬儀におけるパンツスーツのルールと、現代どのような考え方が生まれているのかについて解説します。

絶対にダメだとの厳格なルールはない

そもそも「葬儀にパンツスーツを着用してはいけない」という厳格なルールはありません。たしかに、喪服には格式があり、立場や弔事の種類ごとに着るものを選ぶのがよいとされていますが、それが「絶対的な価値観であるといえるのか」というと、そうではありません。

『「喪服はパンツスーツでも問題無い」とされる主なケース』でご紹介したケース以外でも、状況に応じてパンツスーツを着用することは可能です。

マナーとして、喪服の格式や、パンツスーツが略喪服にあたるという知識は持っておくべきですが、その上で、最終的に何を着るかは、ご自身で判断されるとよいでしょう。

多様性が重視される現代、喪服のパンツスーツも許容されるように

かつて日本の葬儀では、参列者は和装が当たり前でした。しかし洋装文化が広がるにつれ、フォーマルな場でも洋服を着るようになり、今では葬儀にブラックフォーマル(洋装)を着る人の割合が多いのが実情です。

また、現在では、生まれながらの性別を理由に「こうでなくてはならない」という価値観を見直す動きがあります。「LGBTQ+」という言葉や、個々の特徴・特性を尊重する風潮も広がってきました。

このような時代の流れとともに、物事の考え方や喪服の格も変化してきており、従来の「女性の喪服はスカートでなくてはならない」という考えから、パンツスーツ着用も許容されるように変化しつつあります。

時代の変化による背景や人々の多様な価値観の違いにより、喪服の常識は今も変化し続けているといえるでしょう。

5.喪服のパンツスーツは一概にマナー違反とはいえなくなってきている

パンツスーツは喪服の中では最も低い格式の、略喪服にあたります。これまではパンツスーツは葬儀にはふさわしくないとされてきましたが、多様性が重視されるようになった昨今では、その考えも変わりつつあります。

パンツスーツが略喪服であると認識した上で、故人様への哀悼の意と、ご遺族の悲しみに寄り添う服装マナーが守れる場合は、パンツスーツを選択肢のひとつにしてもよいでしょう。

今回、喪服のパンツスーツについてご紹介した花葬儀では、大切な方をお見送りする最後の時間がいつまでも心に残るものであるよう、さまざまなご提案をしております。葬儀に関するお困りごとのご相談やサポートを行う会員サービスも提供しておりますので、お気軽にご相談ください。

花葬儀/リベントファミリーのご案内
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