相続放棄したいとき葬儀費用は遺産から払える?故人様の預貯金は引き出して使える?
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- 【 相続に関わるお金 】
相続放棄を考える際に、「葬儀費用を、放棄予定の遺産から支払っても大丈夫か」と悩む方が多いようです。
葬儀費用には数十万円以上が必要となるため、遺産から支払いたいと思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし同時に、「相続しない遺産を使ってしまったら、問題になるのではないか」と不安になることもあるのではないでしょうか。
そこで今回は、相続放棄と葬儀費用の関係について詳しくご紹介します。後にトラブルが起きないようにするためにも、ぜひ最後までお読みください。
1.相続放棄を考える前に知っておくべき基本事項
まずは、相続放棄について基本的な事項をご紹介します。手続きの期限など、重要な情報についても述べているため、既にご存じの方もおさらいする気持ちで目を通してみてください。
相続放棄とは何か?
相続放棄とは、「被相続人(亡くなった方)から受け継ぐ予定の相続財産の全てを放棄することができる制度」です。
「相続財産」には、「プラスの財産」と「マイナスの財産」があります。それぞれの主な内容は以下のとおりです。
プラスの財産 | マイナスの財産 |
---|---|
・預貯金 ・証券 ・自動車 ・不動産 ・骨とう品 ・貴金属など |
・借入金 ・未払いの税金(所得税、住民税など) ・未払いの費用(光熱費、家賃、サブスクリプション代など)など |
「プラスの財産に比べてマイナスの財産が多い」「相続に伴う親族トラブルに巻き込まれたくない」などの事情がある場合、相続予定の人は、相続放棄を選択することで負担を軽くできるでしょう。なお、被相続人が存命中は、相続放棄をすることができません。
相続放棄するための手続き・期限
相続放棄の期限は、「相続の開始があったことを知った時から3カ月以内」と民法で決められています。熟慮期間が十分にあると感じるかもしれませんが、この期間の間に下記を行わなくてはなりません。
1 「相続放棄申述書」「被相続人の住民票除票または戸籍附票」「申述人の戸籍謄本」を用意する
2 被相続人の最後の住所地を管轄する裁判所に申し立てる
3カ月という期間内に相続放棄の手続きが間に合わなかった場合、熟慮期間の伸長(延長)の申立てを行うことができます。ただし、伸長の申立てが受理されるかどうかはケースバイケースであるため、相続放棄の意向を固めたら、なるべく早いうちに行動することをおすすめします。
2.相続放棄したい場合、葬儀費用は誰が払う?
被相続人の葬儀代は、相続人(喪主)、あるいはご遺族が支払うのが一般的です。
また、「故人様の葬儀費用を、相続放棄する予定の遺産から支払うことはできるのか?」という問いに対する答えは「イエス」です。
相続放棄をする場合でも、故人様の葬儀費用を、故人様の遺産から支払うことは法律上問題ありません。ただし、一部のケースにおいては、葬儀費用を遺産から支払ったことによって、その後の相続放棄が認められなくなることがあるため、注意が必要です。詳しくは、次の項にて解説します。
3.葬儀費用を遺産から支払うと相続放棄が難しくなる場合とは
「相続放棄する場合でも、故人様の葬儀代を遺産から出すことができる」と回答しましたが、場合によっては相続放棄が難しくなることがあります。
次項より、詳しく解説していきます。
「単純承認」したと見なされると相続放棄できなくなる
相続放棄が認められなくなるケースとは、裁判所が「相続人が被相続人の財産を単純承認した」と判断した場合です。
単純承認とは、「相続人が被相続人のプラスの財産だけでなく、マイナスの財産も全て無制限・無条件に相続すること」を意味します。一度単純承認と見なされると、たとえ相続放棄の意思があったとしても、すべての財産を相続しなければならなくなります。
葬儀費用の支出は、一定の範囲内であれば単純承認には当たらないとされますが、単純承認と見なされる金額の明確な基準はありません。「そのお金は実際に葬儀費用のためだけに使用されたのか?」と疑問視されるような支出をした場合、単純承認と見なされるリスクがあります。
単純承認と見なされる恐れのあるケース
どのような行為が単純承認に該当するのかは、民法第921条で以下のように定められています。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
参照元:民法(明治二十九年法律第八十九号)
(令和五年法律第五十三号による改正)
URL:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
これを要約すると、以下の通りです。
1 相続人が、相続放棄をする前に相続財産の一部、または全部を処分した
2 相続放棄の手続き期間内に手続きを行わなかった
3 相続人が、相続財産の一部または全部を隠匿したり、私的に使ったり、悪意を持って目録に記載しなかったりした
以上の点を踏まえて、相続放棄予定の財産から葬儀費用を支払った際に起こりうる単純承認の事例をご紹介します。
身分不相応に葬儀規模が大きい場合
相続財産から支払うことのできる葬儀費用は、以下の通りです。
・通夜、葬儀に直接かかった費用
・火葬代
・ご遺体の運搬、安置費用
・宗教者へのお布施、読経料、戒名料
・埋葬料、納骨代
常識的な金額内で使用する分には、「相続財産の処分」に該当しないと過去に判例として出ています。
しかし、これらの費用が身分不相応に高額であった場合、「遺産を私的に消費した」「税金を有利にするために処分した」ことが疑われ、単純承認と見なされる可能性があります。
相続財産を処分してしまった場合
「相続財産の処分」には、財産の売却、廃棄、譲渡、損壊も含まれます。
例1:被相続人の自動車や不動産を勝手に売却した
例2:被相続人が得ていた賃料の振込先を自分名義の口座に変えた
例3:被相続人の預金口座を解約して、お金を消費した
その他にも、故人様の資産価値の高い遺品を「副葬品」として故人様の棺に入れて火葬してしまうことも、場合によっては「相続財産の処分」と見なされる可能性があるため、注意してください。
法要などの費用を取り置きした場合
先ほどご紹介した、「相続財産から支払うことのできる葬儀費用」の中に、法要の費用は含まれていません。四十九日や一周忌といった法要にかかる金額を相続財産から持ち出してしまうと、単純承認と見なされます。
法要以外にも、「香典返し」「墓地や墓石の購入代」「仏壇や仏具の購入代」「死体の解剖費」も相続財産から捻出することはできません。
4.故人様の預貯金を引き出して葬儀費用を支払うと、相続放棄できない?
葬儀は、亡くなってから3~10日以内に行われます。その間に相続放棄の手続きを完了させることはほぼ不可能ですから、相続人(喪主)は、相続放棄の確定がなされないまま、故人様の財産を葬儀費用に使うことになります。
故人様がまとまった現金を所有していなかった場合、故人様の預貯金を引き出す必要があるかもしれません。これは「相続財産の処分」つまり、単純承認にあたるのでしょうか?
過去の判例では、次のように判断されています。
「遺族として当然なすべき被相続人の火葬費用ならびに治療費残額の支払いに充てたのは、人倫と道義上必然の行為であり、公平ないし信義則上やむを得ない事情に由来するものであって、(略)抗告人が相続の単純承認をしたものと擬制することはできない」
(大阪高裁 昭和54年3月22日)
「被相続人に相続財産があるときは、それをもって被相続人の葬儀代に充当しても社会的検知から不当なものとはいえない」
(大阪高決 平成14年7月3日)
これらの判例では、「一定の範囲内においては単純承認に該当しない」と結論付けられました。つまり、被相続人の預貯金を引き出してしまったという事実のみで、相続放棄が却下されることはないということです。
ただし、過去にこのような判例が出たからと言って、他の類似したケースも同様に判断されるとは限りません。どの規模までなら不問とするのかは、被相続人の財力や身分、相続人の家庭水準などによっても異なるため、具体的な線引きができるものではないのです。遺産の分配が終了するまでは、故人様の預貯金には手を付けないのが基本です。
5.葬儀費用を遺産から払って相続放棄するときの注意点
葬儀費用を遺産から払い、相続放棄をするには、注意すべき3つのポイントがあります。
後になって大きなトラブルを生まないために、これらをしっかりと押さえておきましょう。
領収書などの必要書類を保管する
葬儀費用を遺産から支払うときには、「財産の全てを相続する意思がある」と見なされないようにしなければなりません。「この支出は、被相続人の葬儀で支払った分である」と証明できるよう、葬儀に関する領収書や明細などの必要書類はきちんと保管しましょう。
葬儀費用の中には「お布施」のように、領収書や明細書の出ない支出もあります。そういったものに関しては「支払った日付」「支払った相手」「支払った金額」を記録するようにしてください。
葬儀の規模にも注意
これまでにご紹介したように、身分不相応に華美な葬儀は、単純承認と見なされる場合があります。執り行う葬儀が身の丈に合ったものか、故人様の社会的立場として妥当なものかは気にかけましょう。
「身の丈に合った葬儀」が分からない場合は、一般的な葬儀プランを選択するか、もしくは葬儀社や、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談すると安心です。
相続放棄回答書に正確に記入する
相続放棄を申述する際、家庭裁判所から「相続放棄照会書」と「相続放棄回答書」が送られてきます。
「相続放棄照会書」とは、申述した本人の意思が間違いないものかを確認するための案内です。内容に問題がなければ、同封されている「相続放棄回答書」に記載されている「被相続人の死亡を知った日付」「相続放棄予定の遺産を処分したり、隠匿したりしていないか」などの質問に答えます。
虚偽の報告をした場合、相続放棄が認められないだけでなく、法的なトラブルに発展する可能性があるので、必ず正直に記入して提出しましょう。
6.遺産のうち受け取っても相続放棄できるもの
相続財産に該当しない以下のものについては、受け取ったとしても、後で相続放棄が可能と考えられています。
●受取人が自分に指定されている下記のもの
・生命保険金
・未支給年金
・遺族年金
●換金価値のない形見分けなど
このほかにも、死亡した被相続人の退職金や、未払いの給与に関しても問題ないとするところもありますが、相続放棄が可能かはケースバイケースです。個々で事情が異なるため、判断に迷うときは専門家に相談することをおすすめします。
なお、葬儀後にしなければならない手続きは多く、70にも及ぶといわれております。詳しくは「葬儀後の諸手続き」で解説しておりますので、参考になさってください。
7.葬儀費用を立て替える際の注意点
故人様の葬儀費用を、故人様の遺産から支払う際、一度喪主やご遺族が立て替えて、後で相続財産から回収するという方法もあります。ただし、立て替える際は、事前に葬儀費用の負担割合を身内で決めておくようにしましょう。
葬儀費用の支払い責任は、葬儀社と契約を結んだ契約者にあります。例えば預貯金を相続する相続人Aと、不動産を相続する相続人Bがいて、相続人Aが相続放棄するとします。
相続人Aが、相続放棄する遺産を葬儀費用に充てようとしていても、葬儀の契約書に相続人Bがサインしてしまえば、支払い義務があるのは相続人Bです。後になって相続人と葬儀費用の負担を分割できると考えず、事前にしっかりと話し合っておきましょう。
8.葬儀費用を相続放棄する遺産から払う場合は慎重に
故人様の葬儀費用を、故人様が遺した財産から支払うことは可能ですが、相続放棄する場合は「単純承認」や「相続放棄回答書の書き方」など、さまざまな点に注意が必要です。「葬儀費用はまかなえたけれど、結果的に相続放棄が認められなくなった」とならないよう、専門家に相談しながら進めることを検討しましょう。
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