相続放棄の流れを解説|期間・手順・注意点をわかりやすく紹介
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- 【 相続の基礎知識 】
今回は「相続放棄の流れ」をテーマとしたコラムをお送りします。相続放棄では、手続き内容や期日に注意が必要です。全体の流れを把握しないまま進めると、予期せぬトラブルに見舞われてしまうかもしれません。
このコラムでは「相続放棄とはなにか」「相続放棄が完了するまでの大きな流れ」「必要な手続きと期限」を詳しく解説します。難しい専門用語もやさしい言葉でわかりやすくお伝えしますので、どうぞ最後までお読みください。
1.相続放棄とは?まずは基礎知識を確認しよう
まずは、相続放棄について基本的な知識を押さえましょう。
相続放棄の概要
「相続放棄」とは、相続する予定だった財産の全てを放棄することです。相続放棄をすると、以下の「プラスの財産」「マイナスの財産」は額に関係なく受け継がないことになります。
種類 | 概要 |
---|---|
プラスの財産 | 現金、預貯金、有価証券、不動産、知的財産、自動車、貴金属、骨とう品、ゴルフ会員権 など |
マイナスの財産 | 各種未払金、借金(債務) など |
相続放棄は、相続人による選択肢のひとつです。他には「単純承認」と「限定承認」があります。
【単純承認】
被相続人(※1)の全ての財産を受け継ぐこと
【限定承認】
被相続人のマイナスの財産を精算した上で、余剰分を相続すること
相続放棄を選択するケースとしては、「被相続人の借金がプラスの財産の額を超えていた」「相続をめぐって家族内で対立が起きているので巻き込まれたくない」などがあります。一度決定したことは撤回できないため、相続放棄をするかは慎重に考えることが大切です。
(※1)財産を残して亡くなった人
財産放棄(遺産放棄)との違いは何?
相続放棄と似た言葉に「財産放棄(遺産放棄)」があります。財産放棄とは、相続人が他の相続人に対して「遺産を相続しない」と伝えることです。それぞれの具体的な違いは以下の通りです。
【相続放棄】
- ・家庭裁判所への手続きが必要
- ・相続人ではなくなる
- ・財産の全てを相続しない
- ・申述には期限がある
【財産放棄】
- ・財産放棄をしても、相続人であることは変わらない
- ・必要な手続きや期限はない
- ・他の相続人と分割して相続できる債務(可分債務)を負うこともある
相続放棄が権利の放棄であることに対し、財産放棄は意思の表明です。遺産分割協議(※2)などで他の相続人に対して「相続はしない」と伝えても、相続人であることは変わりません。最終的に、被相続人の負債の一部を受け継ぐ可能性もあります。
(※2)遺産の分割内容を相続人同士で話し合って決めること
2.相続放棄の流れ|手順の全体像
相続放棄はどのような手順で行われるのか、全体像を把握しておくと手続きがスムーズになります。
相続放棄の流れをこちらで詳しく解説します。
相続放棄が受理されるまでの流れ
相続放棄の流れは、以下の通りです。
- 1.被相続人の財産状況を調査する
- 2.相続放棄の手続きを行う家庭裁判所を確認
- 3.必要書類を用意する
- 4.相続放棄申述書を記入する
- 5.期限内に家庭裁判所に相続放棄を申し立てる
- 6.家庭裁判所の照会に対応する
- 7.相続放棄許可の通知を受け取る
相続放棄の意思を固めてから受理されるまでには、早くても数週間から1カ月程度を要します。それぞれの詳細はこの後でご紹介します。
相続放棄を申述できる期間は3カ月
相続放棄を申述することができる期間は、「相続の開始を知った時から3カ月以内」と決められています。相続の開始時期の具体例を見てみましょう。
- ・自分を相続人とする旨の遺言書が見つかった
- ・ご家族の死亡によって、自分に相続権があることを認識した
3カ月を過ぎてしまうと、本人の意思に関係なく「単純承認」をしたものとみなされるため、相続放棄の意向がある場合は必ず期間内に手続きをしましょう。
なお、以下のケースにおいては、申述期間を過ぎていても相続放棄が認められることがあります。
- ・被相続人が財産の内容を明らかにしないまま亡くなったため、財産の調査に時間がかかっている
- ・他の相続人と連絡が取れず、相続の内容についての話し合いができていない
- ・被相続人が負債を隠していたことが、後になって判明した
上記の例外は絶対的なものではなく、あくまでも「認められる可能性がある」ことに注意が必要です。また、「手続きを忘れていた」「多忙だった」という理由での期間伸長は認められません。詳しくは「相続放棄の期間について」の記事をご覧ください。
3.相続放棄の流れ|ステップごとの詳細を解説
前述した相続放棄の流れを、ステップごとに解説します。
1.被相続人の財産状況を調査する
相続放棄を決断するためには、「どのような財産が、どのくらいあるのか」の把握が重要です。まずは、被相続人の財産状況を確認しましょう。
被相続人が財産の情報を遺言書やエンディングノート(※3)に残していない場合、相続人自らが調査することになります。金融機関からの郵送物や固定資産税通知書などを使って、プラスの財産とマイナスの財産を正確に把握します。被相続人の財産が多岐にわたり、調査が困難な場合は、弁護士に相続財産調査を依頼することで負担が軽くなるでしょう。
(※3)いつか来る死に、もしくは判断力が低下した時に備えて、必要な情報や希望を自由に記入するツール
2.相続放棄の手続きを行う家庭裁判所を確認
相続放棄の申述先は、被相続人が最後に住んでいた場所を管轄する家庭裁判所です。最高裁判所のホームページから、申述先が確認できます。
最高裁判所ホームページ 裁判所の管轄区域
https://www.courts.go.jp/saiban/tetuzuki/kankatu/index.html
3.必要書類を用意する
相続放棄に必要な書類を用意します。用意するのは、「共通して必要となる書類」と「申述者の立場ごとに必要となる書類」です。
申述者に共通して必要な書類
まずは、共通の必要書類をご紹介します。
【共通の必要書類】
- 1.相続放棄申述書
- 2.被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 3.利害関係人(※4)からの申し立ての場合は利害関係を証明する資料
(※4)被相続人が生前に借金をしていた相手など、相続放棄について利害関係がある第三者
申述者の立場によって必要となる書類
申述者の立場ごとに必要な書類は以下の通りです。
【被相続人の配偶者の場合】
- ・被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
【被相続人の子または孫の場合】
- ・被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
- ・(相続放棄をするのが孫の場合)子の死亡の記載のある戸籍謄本
【被相続人の父母または祖父母の場合】
- ・被相続人の出生から死亡までの全部事項が載った戸籍謄本
- ・(被相続人の子が死亡している場合)子の出生から死亡までの全部事項が載った戸籍謄本
- ・(被相続人の父母が死亡している場合)父母の死亡の記載がある戸籍謄本
【被相続人の兄弟姉妹または甥姪の場合】
- ・被相続人の出生から死亡までの全部事項が載った戸籍謄本
- ・(被相続人の子が死亡している場合)子の出生から死亡までの全部事項が載った戸籍謄本
- ・被相続人の直系尊属の死亡の記載がある戸籍謄本
- ・(相続放棄をするのが甥姪の場合)親である兄弟姉妹の死亡の記載がある戸籍謄本
必要書類については、最高裁判所のホームページも参考になさってください。
最高裁判所ホームページ 相続の放棄の申述
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html
4.相続放棄申述書を記入する
相続放棄申述書を作成します。相続放棄申述書の記入例は、最高裁判所ホームページに掲載されています。
引用:最高裁判所 相続の放棄の申述書(成人) 記入例
https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/2023/2023_souzokuhouki_rei18h.pdf
https://www.courts.go.jp/saiban/syosiki/syosiki_kazisinpan/syosiki_01_13/index.html
相続放棄申述書のダウンロードは、最高裁判所ホームページから行うことができます。例を参考に必要事項を記入し、800円分の収入印紙を貼りましょう。
5.期限内に家庭裁判所に相続放棄を申し立てる
必要書類をそろえたら、管轄の裁判所へ相続放棄を申し立てます。申し出は相続放棄をしたい相続人本人が行うのが原則です。
「相続開始を知った時から3カ月以内」という相続放棄の期間は、ここまでを指しています。3カ月以内に申し立て手続きが完了していれば問題ありません。ただし、期間内にあることをしてしまうと、相続放棄が無効となることがあります。相続放棄手続き中のタブーは、「5.相続放棄を考えるときの注意点」でご紹介します。
6.家庭裁判所の照会に対応する
申し立てをしてから10日ほどすると、家庭裁判所から「照会書」が送られてきます。この照会書は、相続放棄が本当に申述者の意思によるものなのかなどを確認するための書類です。
照会書には「回答書」と呼ばれるものが同封されており、記載されている質問に回答して返送します。正確に答えなかったり、指定された期間内に返送したりしなかった場合は、相続放棄が認められない可能性が高まりますのでご注意ください。
7.相続放棄許可の通知を受け取る
照会書による質問に回答して返送すると、10日ほどで家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が届きます。この通知書を受け取ったら、相続放棄の手続きは完了です。相続放棄申述通知書は再発行されないため、十分に気を付けて保管してください。
相続放棄が受理されたことを証明するための証明書がほしい場合は、申請用紙に記入の上、1件につき150円分の収入印紙を添えて申請すると受け取ることが可能です。
4.相続放棄にかかる費用
相続放棄を家庭裁判所に申述する際に最低限必要となる費用は、以下の通りです。
- ・収入印紙代800円
- ・必要書類の発行費用
- ・連絡用の郵便切手代
ここでいう「必要書類」とは主に戸籍謄本を指し、相続放棄を申述する人と、被相続人の関係によって用意するものが異なります。詳しくは、前述の「必要書類を用意する」をご覧ください。
このほか、相続放棄をするために財産の査定や相続人調査を行った場合は、別途費用がかかります。
5.相続放棄を考えるときの注意点
「相続放棄は一度受理されると、撤回できない」とご説明しましたが、その他にも気を付けなければならないポイントがあります。
財産の処遇で後悔しないためにも、注意点を押さえておきましょう。
相続放棄は被相続人の生前にはできない
相続放棄は、被相続人が存命中に行うことはできません。相続とは、亡くなった人の所有していた財産や権利を引き継ぐことを指すからです。被相続人の存命中に相続放棄の意思を固めた場合は、いざという時にスムーズに手続きを行えるよう、必要なものを把握したり、周りに意思を伝えたりしておきましょう。
相続放棄前に遺産を使うと無効になることがある
相続放棄で特に気を付けなければならないのが、「遺産を使ってしまうこと」です。相続放棄が裁判所で認められる前に以下の行為があった場合、相続放棄が認められなくなることがあります。
- ・被相続人の預貯金の引き出しや解約
- ・被相続人名義の不動産や株式などの売却、処分
- ・被相続人の住居の解約や解体
- ・被相続人が未払いだった税や借金の精算
- ・不在者財産管理人(※5)が管理している財産の売却
相続放棄が認められる前に被相続人の財産に手をつけてしまうと、「相続人が財産を相続する意思を示した」と見なされてしまいます。相続人の意思に関係なく単純承認となってしまうため、相続放棄の手続き中は特に注意しましょう。
よくあるケースとしては、被相続人の葬儀費用を遺産から捻出した場合が挙げられます。こちらに関しては「相続放棄と葬儀費用」の記事で詳しく解説しておりますのでご一読ください。
(※5)行方不明中の人の財産を管理する職務を負う人
相続放棄により他の人に負担が移る可能性がある
相続放棄をすることによって、本来相続するはずだった財産は他の相続人に受け継がれます。マイナスの財産が多かった場合、他の相続人の負担になることが考えられます。
また、相続には順位があり、相続放棄をすると、相続放棄をした人の相続分は、同順位の他の相続人に分配されます。同順位の相続人がいない場合には、次の順位の相続人が相続権を得ます。新たな相続人は期限内に遺産を相続するか判断したり、必要な手続きを行ったりしなくてはなりません。
相続放棄の意向がある場合は、次の相続人となる人になるべく早く伝えましょう。
6.相続人全員が相続放棄をしたら、遺産はどうなる?
もしも、相続人全員が相続放棄をした場合、被相続人の財産はどうなるのでしょうか。
押さえておきたいポイントを以下より解説します。
遺産処理で押さえておきたいこと|相続人全員とは?
民法によって定められている「相続する権利を持った人」のことを「法定相続人」といいます。法定相続人は、以下のように優先順位が決められています。
【法定相続人に該当する人と相続順位】
- ・常に相続人となる人
- 配偶者
- ・第1順位
- 直系卑属(子、孫)※子が死亡している場合は孫が相続人となる
- ・第2順位
- 直系尊属(父母、祖父母)※父母が死亡している場合は祖父母が相続人となる
- ・第3順位
- 兄弟姉妹 ※兄弟姉妹が死亡している場合は甥や姪が相続人となる
「相続人全員」というのは、この法定相続人に該当する人物と、遺言書に相続人として記されていた血族以外の人物をまとめて指します。
清算手続き後に残った財産は、国に所有権が移る
相続人全員が相続放棄をした場合、法律上「相続財産法人」が成立します。相続財産法人とは、相続人不在の場合に、遺産の清算を目的として一時的に設立される法人のことです。この法人に遺産が帰属し、債権者など法律上の利害関係者との間で、債務の支払いや財産分与などの処理が進められていきます。
これらの清算手続き完了後、もし財産が残っている場合は最終的に国庫に帰属することになります。以下では、その具体的な処理の流れについて説明していきます。
7.相続人全員が相続放棄したときの遺産処理の流れ
こちらでは、相続人全員が相続放棄をして、相続する人がいなくなった際の遺産処理の流れをご紹介します。
1.相続財産清算人の選任
全員が相続放棄の意思を示した財産は放置されてしまうため、財産を管理、保存、処分する人を用意しなくてはなりません。これを「相続財産清算人」といいます。相続財産清算人が行える権限は、具体的に以下の通りです。
- ・不動産の相続登記(相続した不動産の名義変更)
- ・預貯金の払い戻し、預貯金口座の解約
- ・賃貸借契約の解除
- ・債務の履行(次項でご紹介します)
- ・不動産や株式の売却
- ・家財の処分 など
相続財産清算人は、利害関係者や検察官が裁判所に申し立て、裁判所によって選任されます。「被相続人に負債がない」「相続放棄された財産の総額が低い」などの場合には、申し立てが行われないこともあります。
2.債務が履行される
被相続人が生前の借金を清算しないまま亡くなり、また相続人全員が相続放棄をした場合、債権者は債権を回収することができません。そこで、相続財産清算人に申し立てを行い、被相続人のプラスの財産から借金を返済してもらうことができます。
3.財産が特別縁故者に渡る
債務履行後に余った財産は、家庭裁判所が相当と認める場合に被相続人の特別縁故者に受け継がれます。「特別縁故者」とは、相続人がいない場合において財産を受け取れる、被相続人と特別親しい関係にあった人のことです。具体的には以下の人を指します。
- ・被相続人と生計を同じくしていた人
- ・被相続人の介護を献身的に務めた人
- ・上記以外でも、被相続人と特別密接な関係にあったと認められた人
特別縁故者が財産を受け取るには、本人が期限内に家庭裁判所へ申し立てを行わなければなりません。また、特別縁故者へ渡った財産は相続税の対象となります。
4.財産が国庫に帰属する
特別縁故者がいない、もしくは特別縁故者が財産の受け取りを拒否した場合、最終的に被相続人の財産は国のものになります。
8.相続放棄の流れに疑問があるときは専門家に相談を
相続放棄を検討してから受理されるまでの流れの間には、さまざまな調査や手続きが必要です。また、相続放棄手続きが正しく完了するための知識を身につけたり、他の相続人とのラブルを予測したりするなど、対策も講じなければなりません。
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9.相続放棄の流れを把握して、期間内に手続きを行いましょう
相続放棄の意向を固めるためには、相続放棄の流れと注意点を把握しておくことが大切です。相続放棄の申告には期間が定められており、必要書類を揃えたり相続人と話し合ったりする時間も必要となるため、早めに行動を起こしましょう。
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