相続人が認知症のときの問題と事前対策~相続手続きについても解説

相続人が認知症のときの問題と事前対策~相続手続きについても解説

今回は「相続人の中に認知症の方がいる場合の相続はどうなるのか?」をテーマに、事前対策と相続手続きについて解説します。

例えばお父様が亡くなり、認知症のお母様と複数人の子どもが財産を相続する場合、相続手続きが難航する恐れがあります。亡くなった方の財産が希望通りの形でご家族に渡るためには、相続人の中に認知症の方がいた場合に起こりうるトラブルやリスクを事前に把握し、対策をしておくことが重要です。

2040年には高齢者の約15%が認知症になると予想されています。現在、周りに認知症の方がいない人も他人事と思わず、もしもの時の備えとしてぜひ最後までお読みください。

1.認知症の人が相続人になったら?法律面から解説

認知症の人が相続人になったら?法律面から解説

「認知症」とはさまざまな脳の病気により、記憶力や判断力などの認知機能が低下して、社会生活に支障をきたしている状態を指します。もしも認知症の人が相続人の中にいた場合、どのようなことが起こりうるのでしょうか?法律面から解説します。

認知症の相続人は相続放棄ができない

最初におさえておきたいポイントは、「認知症の人がとった法律行為は、無効となる可能性がある」ことです。このことは、民法第3条の2により定められています。

法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。

(民法第3条の2)

相続人は被相続人(財産を残して亡くなった人)の希望に関わらず、相続を放棄することが可能です。しかし相続放棄も法律行為にあたるため、認知症の人が相続放棄しようとしても民法上認められません。

相続する財産よりも負債が多い場合や、相続財産の維持コストが高い場合など、客観的に見て相続放棄したほうがよさそうでも、スムーズに相続放棄ができないのです。

認知症の相続人がいると遺産分割協議は非常に困難

被相続人が遺言書を残していなかった場合、法定相続分(民法で定められた相続割合)に従って遺産を分配することが可能です。しかし、相続人全員の同意があれば、法定相続分とは異なる分配を決定することもできます。その場合は、相続権のある人全員で「誰が・何を・どのくらい相続するか」を相談して決めます。この話し合いを「遺産分割協議」といいます。

遺産分割協議は法律行為であるため、相続人の中に認知症の方がいた場合、有効な遺産分割協議を行うこと自体が非常に困難になります。

相続人の代わりに署名すると罪に問われる恐れも

遺産分割協議で決定した内容は「遺産分割協議書」にまとめます。遺産分割協議書はその後の相続手続きに必要となり、相続人全員の署名と捺印が必須です。自分の意思のもと行動できない認知症の相続人に代わって他の相続人が署名・捺印を行うと、遺産分割協議そのものが無効になるだけでなく、代筆した人が私文書偽造の罪に問われる恐れがあります。

2.相続人の認知症が軽度の場合はどうなる?

認知症には軽度~重度と程度があるため、全ての認知症の方が遺産分割協議に参加できないわけではありません。遺産分割協議に参加できるだけの意思能力が本人にあると判断されれば、遺産分割協議ならびに遺産分割協議書は有効となります。

なお、意思能力の判断は、多くの場合、医師の診断や関係者の総合的な評価に基づいて行われます。しかし法的な争いが生じた場合には、最終的には裁判所が判断を下すことになります。

軽い認知症であっても、法律上「判断能力のない者」とされてしまった場合、遺産分割協議が無効になるかもしれません。そのため、認知症の程度に関係なく、財産所有者が元気であるうちに対策を講じておくことが無難です。事前の対策については、「【財産所有者がご存命のとき】認知症相続人がいる場合の対策」で詳しくご説明します。

3.相続人が認知症の場合に起こりうる相続トラブル・リスク

相続人が認知症の場合に起こりうる相続トラブル・リスク

相続人の中に認知症の方がいた場合、相続ではどのようなトラブルやリスクが起こるのでしょうか?
こちらで詳しくご紹介します。

相続人同士が対立する

ひとつめの可能性は、「相続人同士の対立」です。

(例)
当時は意思能力があった相続人が筆頭となって、財産の分割割合を決めていた。ところが遺産分割協議書を作成する直前に認知症が進行してしまったことにより、遺産分割協議がやり直しとなった。結果、白紙になった分割割合を巡って相続人同士が対立してしまった。

認知症の進行速度は人によって異なること、認知症の症状は日や時間によって波があることなどが、相続人同士の争いの原因となるようです。

認知症相続人が財産を適切に管理できない

遺産が相続されたとしても、認知症の程度によっては以下のようなトラブルが起こり得ます。

(例)
認知症の相続人が相続したはずの遺産(貴金属)がいつの間にか無くなっていた。ご家族が本人に確認を試みたが、相続人が廃棄してしまったのか、盗まれてしまったのかが分からず、そのまま行方知れずとなった。

認知症である相続人が財産を適切に管理できなくなっていた場合、遺産を失ったり相続人の間で疑心暗鬼に陥ったりといったことが起こる可能性もあります。

被相続人の意思が反映されない相続になる

相続が発生する前に対策を何も行っていなかった場合、被相続人の意思が反映されない相続になることがあります。

(例)
財産所有者は「家族みんなで相談して納得のいくように財産を分け合ってほしい」と思っていたが、相続が発生したとき(財産所有者の死亡)に認知症を患った相続人がおり、遺産分割協議が難航し、結果として誰も納得できない形での相続となった。

相続税の特例が使えない

相続した財産の総額が「3,000万円+600万円×法定相続人(※1)の数」を超えた分には相続税が課されます。

相続税には「配偶者の税額軽減」「小規模宅地等の特例」など、税額を一部軽減させるための特例がありますが、特例を受けるためには遺産分割が確定していることが必要です。「遺言書なし・認知症の相続人あり」の場合の相続では、遺産分割協議が難航する可能性があり、特例を使うことができない恐れがあります。

(※1)民法で定められた「相続する権利を持つ人」のこと。被相続人にとっての配偶者や子、両親や兄弟姉妹など。

預貯金などが凍結される

口座の名義人が認知症であると判断された場合、金融機関は財産の安全を守るために口座を凍結します。金融機関によっては、現金の引き出しや、ローンの支払いが不可能になるかもしれません。

被相続人から現金や株式を相続した場合には、後にご説明する成年後見制度を利用しなければ、自分の口座に移したり運用したりすることができなくなります。

4.【財産所有者がご存命のとき】認知症相続人がいる場合の対策

【財産所有者がご存命のとき】認知症相続人がいる場合の対策

認知症による相続トラブルやリスクを回避するために、どのような対策が必要なのでしょうか。
まずは、財産所有者が元気な間にやっておくべき対策をご紹介します。

財産所有者が遺言書を作成しておく

「誰に・何を相続させるのか」が記された遺言書があれば、原則としてその内容に従って相続手続きを進めますので、相続人が遺産分割協議を行う必要はありません。財産所有者は存命中に遺言書を作成しておくことで、認知症である相続人にも希望通りの相続を行うことができるでしょう。

生前贈与も検討する

存命中に自分の財産をご家族に引き継ぐことを「生前贈与」といいます。生前贈与することのメリットは以下の通りです。

・相続してほしい特定の財産を相手に残すことができる。
・いざ相続が発生したときの財産が減るため、相続人が支払うことになる相続税が下げられる など。

ただし、生前贈与のための贈与契約は、贈与者と受贈者の双方が合意することで成立します。認知症の方が意思能力を欠いていると判断される場合、契約は無効となる可能性があります。

ほかにも、控除額以上の贈与には贈与税がかかる点、生前贈与が他の相続人の不満を買ってしまう恐れがある点に注意しなくてはなりません。財産所有者が生前贈与を検討する際は慎重な対応が求められます。

家族信託の手続きをする

家族信託とは「自分の財産を管理・運用・処分する権利」をご家族に託す契約です。家族信託では「委託者」「受託者」「受益者」の役割があり、それぞれの意味は以下の通りです。

・委託者……財産の管理を任せる人(財産所有者)
・受託者……任された財産の名義を受け持ち、委託者の財産を管理・運用・処分する人
・受益者……受託者が管理した財産から発生した利益を得る人

認知症のご家族が相続人となる可能性がある場合、財産所有者が他のご家族と家族信託を結び、認知症の方を受益者に指定することが対策として考えられます。次に、家族信託のメリットとデメリットについて解説します。

家族信託のメリット

財産所有者が子と家族信託を結び、認知症のご家族を受益者に指定した場合、以下のメリットが生まれます。

・認知症の相続人にも望み通りの遺産を渡すことが可能。
・信託している財産については、帰属先があらかじめ定められているため、相続発生時に遺産分割協議が不要。
・不動産など複数人で共有して相続するような財産でも、そのうちの一人を受託者とすることで、管理・運用・処分を集中させることができる。
・万が一、共有相続人の誰かが認知症になっても、受託者の権限で相続した不動産の売却や管理ができる。(通常、共有名義人全員の同意が必要)

家族信託のデメリット

家族信託にはメリットがある一方、以下のようなデメリットがあることにも留意しましょう。

・家族信託は相続税の節税対策にはならない。
・受益者である認知症の相続人(予定)に対し遺留分侵害額(※2)が請求され、相続人同士のトラブルへ発展する恐れがある。

受託者には財産管理や運用の責任が伴うため、ご家族が受託者になるのをためらうケースも多くみられます。受託者の負担や責任について十分に理解し、ご家族で十分に話し合うことが重要です。

(※2)法定相続人には、被相続人との関係ごとに最低限の遺産の取り分が民法で定められており、これを「遺留分(いりゅうぶん)」と呼ぶ。遺言書や家族信託などによって自分の遺留分が侵害された場合、「遺留分侵害請求権」を行使することによって最低限の取り分を求めることができる。

成年後見制度を利用する

認知症や知的障害などによって、判断能力が不十分な人を守るための制度が「成年後見制度」です。相続のケースでは、認知症の相続人(予定)に変わり後見人が財産を管理したり、遺産分割協議に参加したりします。成年後見制度を利用することによって、認知症の相続人でも法律行為が認められるということです。

成年後見制度を利用することのメリット・デメリットは以下の通りです。

【認知症の相続人が成年後見制度を利用することのメリット・デメリット】
メリット ・遺産分割協議に代理で参加してもらえる
・財産の管理や、日常生活の支援・保護を任せられる
デメリット ・認知症の契約者が死亡するまで後見人に報酬を払い続けなければならない
・後見人は外部の専門家がなることが多く、遺産分割協議での話し合いがスムーズにいかなくなることがある

財産所有者の生命保険の受取人になっていないかもチェックする

財産所有者は、認知症のご家族が自分の生命保険の保険金の受取人になっていないか確認することも大切です。保険金が発生すると、受取人は保険会社に連絡して請求手続きを行います。しかし、認知症が進んだ状態では手続きをしたり、保険の内容を理解したりすることが難しくなるため、保険金が正しく受け渡されない可能性が高くなります。

認知症の人でも保険金を受け取るためには、成年後見制度の後見人や法定相続人の代表者による請求の他、「指定代理請求制度」を利用する方法があります。しかし「後見人や代表者の決定が進まない」「指定代理請求制度が利用できない」といった理由から保険金の受取がスムーズにいかないパターンも考えられます。

生命保険をはじめとした各種保険の受取人が認知症の相続人になっている場合は、後々に起こるかもしれないトラブルや、手続きをするご家族の負担を考慮して、受取人の変更を検討することも必要です。

5.【財産所有者のご逝去後】認知症相続人がいるときの相続手続き

財産所有者が死亡した後に始まる相続において、相続人の中に認知症の方がいた場合の相続手続きについてご紹介します。

遺言書がある場合

原則として、財産を分けるときに最も優先されるのは「故人様の意思」です。被相続人が遺言書を残していれば、認知症の相続人にも遺言書の内容に沿った形で財産が承継されます。

遺言書が無い場合

遺言書が無い場合は、以下のいずれかの方法で相続手続きを行うことになります。

法定相続割合を用いる

「法定相続割合」とは、民法によって定められている遺産分割の割合の目安です。被相続人との関係によって相続できる割合が異なりますが、配偶者は常に2分の1を相続し、残りの2分の1は子どもたちで均等に分けます。

例えば被相続人に妻と2人の子どもがいた場合、法定相続割合は以下のようになります。

配偶者(妻)…財産の2分の1
子…財産の4分の1(一人当たり)

法定相続割合はあくまでも目安ですが、被相続人が遺言書を残していない場合は、この法定相続割合を用いて遺産を分配するのがひとつの方法です。法定相続割合での相続によるメリット・デメリットは以下を参考になさってください。

【法定相続割合のメリット・デメリット】
メリット ・割合を参考にするため、比較的簡単に相続内容が決定できる
デメリット ・相続人同士が納得していれば、遺産の分配割合を変えることも可能だが、認知症の相続人がいる場合はスムーズに決定できない可能性が高い
・被相続人との戸籍上の関係のみで振り分けられるため、特別な事情(※3)があっても相続割合が調整できない

(※3)例えば、被相続人から生前に多額の贈与を受けた相続人がいる場合(特別受益)や、財産所有者の財産形成に貢献した相続人がいる場合(寄与分)が挙げられる。

遺産分割協議を行う

遺産分割協議を行う場合、認知症の相続人にどの程度の意思能力があるかが重要です。「意思決定が自分で行える状態にない」と判断されると、遺産分割協議で決まった内容が無効となります。遺産分割協議を始める前に医師の診断書を入手しておくと、判断がスムーズになるでしょう。

繰り返しになりますが、認知症の相続人に代わって他の相続人が署名や捺印をすることは私文書偽造の罪に問われる恐れがあるため、十分に注意が必要です。遺産分割協議を行うメリット・デメリットは以下を参考になさってください。

【遺産分割協議のメリット・デメリット】
メリット 相続人全員の意思が反映された遺産分割が行いやすい
デメリット 認知症の程度によっては協議内容そのものが無効となる可能性がある

成年後見制度を利用する

認知症の相続人が意思決定を十分に行える状態ではない場合、「成年後見制度」を利用し、遺産分割協議に代理で参加してもらうのも有効な方法です。

成年後見制度は相続問題だけでなく、認知症患者のその後の生活を支えてくれる便利な制度です。しかし、「代理人への報酬を払い続けなくてはならない」「第三者が遺産分割協議に出ることで相続トラブルが発生するケースもある」といったことも理解した上で利用しましょう。

6.認知症や相続は花葬儀にご相談ください

大切な人の訃報から日が経たないうちに、相続の話し合いの場を設けなくてはならないこともあるでしょう。

遺言書の無い相続において相続人の中に認知症の方が場合、誰が何を相続するといった話し合いは難航することが予想されます。そうなる前に、ぜひ花葬儀にご相談ください。花葬儀は葬儀社ですが、認知症と相続に関する不安や疑問を解決するためのサポートを行っております。

花葬儀に相談することのメリット3点を以下にご紹介します。

1.専門家とのネットワークがある
遺言書や相続などの専門的な相談が可能です。花葬儀の相続手続き相談室顧問である門脇紀彦司法書士に「成年後見人制度」についてお伺いした記事も参考にご覧いただけます。

2.中立的な立場で営業なし
家族信託や成年後見制度などのメリット・デメリットを中立的な立場からご説明いたします。

3.ひとつの窓口で全部解決
負担をかけずにさまざまなジャンルの相談がワンストップサービスで行えます。

「どこに相談したらよいかわからない」「あちこちに相談している余裕はない」「中立的な立場から話を聞きたい」という方は、ぜひ花葬儀までご相談ください。

7.認知症の相続人がいる場合は早めの対策を

認知症の相続人がいる場合は早めの対策を

認知症の方が相続人にいる場合、相続手続きはより一層難しくなります。いざという時に悩まないためにも、遺言書を作成したり、成年後見制度を検討したりするなどして、事前に備えてみてはいかがでしょうか。

花葬儀への認知症・相続のご相談には、弊社メンバーシップクラブ「リベントファミリー」へのご加入がおすすめです。リベントファミリーは、突然のご不幸に対する迅速なサポートだけでなく、相続にまつわるあらゆるお悩み事へのお手伝いもしております。会員の方はもちろん、2親等以内のご家族もご利用いただけますので、この機会にぜひご検討ください。

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