浄土宗の葬儀~浄土真宗との違いは?流れからマナー・費用まで解説
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- 【 葬儀の種類 】
今回は、浄土宗の葬儀の特徴やマナー、喪主が押さえてくべきことなどを解説します。仏教にはさまざまな宗派があり、それぞれに独自の考え方や儀式、作法があります。浄土宗の葬儀に参列する場合は、浄土宗特有の葬儀の流れやマナーなどについて、知っておく必要があるでしょう。
浄土宗で葬儀を行う予定の方、または浄土宗の葬儀に参列する予定のある方は、ぜひ参考になさってください。
1.浄土宗における葬儀の特徴・意義
浄土宗における葬儀の特徴をご紹介する前に、まずは浄土宗の教えを押さえておきましょう。
浄土宗の教え
浄土宗の教えとは、どのようなものなのでしょうか。浄土宗と混同されがちな「浄土真宗」との違いとあわせて解説します。
「南無阿弥陀仏」を唱えれば救われる
浄土宗は、平安時代に法然(ほうねん)によって開かれた仏教宗派で、阿弥陀如来(あみだにょらい)を本尊としています。
法然は、「南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)」と念仏を唱えるだけで、すべての人は平等に救われ、極楽浄土に往生できると説きました。極楽浄土に往生することを目的としたので「浄土宗」と名付けられたといわれます。
平安時代、仏教は裕福な貴族の間で信仰され、厳しい修行が必要だとされており、民衆とは切り離された存在でした。そのような中、「ひたすら念仏を唱えること(専修念仏)さえすれば極楽浄土へ行ける」とする浄土宗の教えは、民衆にも受け入れられやすく、またたく間に全国へと広まりました。
浄土宗と浄土真宗の教えの違い
浄土真宗は、法然の弟子である親鸞が開きました。そのため両宗派ともに本尊は阿弥陀如来であり、阿弥陀如来の力で極楽浄土がかなうという基本的な教えは共通しています。
しかし、浄土宗と浄土真宗では、念仏の捉え方に大きな違いがあります。
浄土宗 | 浄土真宗 | |
---|---|---|
開いた人物 | 法然 | 親鸞(しんらん/豊年の弟子) |
経典 | 般若心経 | 浄土三部経 |
教え | ・念仏を唱えることが必須 ・繰り返し念仏を唱えれば、極楽浄土へ導いてもらえる |
・阿弥陀如来の力(他力)を信じる「信心」が大切 ・信心さえあれば、往生できる |
法然は、念仏を唱えることが唯一の魂の救済方法であり、「繰り返し念仏を唱えれば、阿弥陀如来によって極楽浄土へ導かれる」としました。
一方、親鸞は「念仏を唱える心」が大切であるとし、「信心さえあれば、念仏の回数にかかわらず往生できる」と説きました。
このように、浄土宗と浄土真宗は「阿弥陀如来の力(他力)で浄土に行ける」との考えは共通しているものの、浄土に行くために若干の自力が必要かどうかという点で異なります。
浄土宗の葬儀の特徴
浄土宗の葬儀には、どのような特徴があるのでしょうか。ここから、詳しくご説明します。
念仏一会(ねんぶついちえ)
浄土宗の葬儀の大きな特徴は、「南無阿弥陀仏」と一心に唱える「念仏一会(ねんぶついちえ)」を、僧侶と参列者全員が共に行うことです。ひたすら念仏を唱えることを重視した浄土宗の特性を表しているといえるでしょう。
唱えられる念仏の回数は僧侶やお寺によって異なりますが、「故人が阿弥陀如来の力で極楽浄土へ往生するように」との願いを込めて唱えます。
木魚などの鳴り物
鳴り物は浄土宗だけでなく、他の宗派の葬儀でも使用されますが、浄土宗においては特に、念仏一会のリズムを整えるために、鐘や木魚などを鳴らします。
時には参列者全員が木魚を手にして念仏を唱えることもあります。浄土宗の葬儀は、他の宗派比べて、にぎやかに行われることが多いといえます。
葬儀の中核「下炬引導(あこいんどう)」
浄土宗の葬儀の中核となるのが「下炬引導」です。下炬引導は、故人様を極楽浄土に導くための儀式といえます。
下炬は元々、遺体を焼く際に使用する薪に火を点ける行為を指していましたが、後には儀式的な行為を意味するように変わりました。また引導とは、故人様に極楽浄土への道を示す儀式をいいます。
下炬引導では、僧侶がたいまつに見立てた法具を2本持ち、そのうちの1本を捨てます。これは、故人様の現世での煩悩が離れる象徴です。続いて、残った1本で円を描き、それを捨てることにより、故人様が極楽浄土へ導かれることを願います。
2.浄土宗の葬儀の基本的な流れ
ここからは、浄土宗の葬儀の基本的な流れについて、葬儀の前後を含めてご紹介します。
通夜
故人様を北の方向に頭が来るよう北枕に寝かせて、顔には白い布をかぶせ、胸元に守り刀を置きます。その後、線香を絶やさないようにしながら、通夜の弔問客を迎え入れます。
浄土宗では、亡くなるとすぐに浄土に行くと考えられているため、通夜の前に授戒(じゅかい)の儀式を行い、戒名を授けます。しかし、近年では通夜の際に枕経を執り行うケースや、授戒の儀式を省略するケースも増えているようです。
授戒の儀式は、剃度作法(ていどさほう)と呼ばれる「髪を剃る動作」を模した儀式が特徴で、大まかに次のような流れで行われます。
奉請(ぶじょう) | 仏様に入場していただくよう願う |
---|---|
懺悔 | 仏様に故人様の生前の罪を懺悔する |
剃度作法(ていどさほう) | 浄土へ行くため頭を剃る仕草をする |
十念 | 参列者で南無阿弥陀仏と10回唱える |
三帰三竟(さんきさんきょう) | 仏・法・僧に帰依することを故人様に伝える |
授与戒名 | 僧侶より故人様に戒名が授けられる |
開経偈(かいきょうげ) | 誦経(ずきょう)、発願文(ほつがんもん)、摂益文(しゅうやくもん)などの念仏を唱える |
念仏一会(ねんぶついちえ) | 僧侶と参列者で「南無阿弥陀仏」を唱える |
回向(えこう) | 念仏を唱えながら、故人様の極楽浄土への往生を願う |
葬儀・告別式
ここでは、浄土宗の葬儀の流れの一例をご紹介します。お寺や僧侶、地域によって内容や順序などは異なりますので、あくまでひとつの例としてお考えください。
入堂 | 僧侶の入場 |
---|---|
香偈(こうげ) | 香をたき身も心も清める |
三宝礼(さんぽうらい) | 仏・法・僧に心から礼拝する |
奉請(ぶじょう) | もろもろの仏様をお招きする文 |
敬礼偈(きょうらいげ) | お招きした仏様を礼拝する文 |
懺悔偈(さんげげ) | 仏様の前で生前の罪を懺悔する |
回向(えこう) | 故人様が浄土に往生できるように願う |
総回向偈(そうえこうげ) | 私たちにも功徳を与えてほしいと願う |
広開偈(こうかいげ) | 極楽浄土の門を開く文 |
引導下炬(いんどうあこ) | 故人様を極楽浄土へと導く作法 |
開経偈(かいきょうげ) | 教義の真義を身につけられるよう願う |
読経・焼香 | 僧侶が経文を読経し、その間に焼香をする |
念仏一会 | 仏ことを感謝し、皆で数多くの念仏を唱える様に救われた |
総回向偈 | 阿弥陀仏の功徳により往生を願う |
灰葬(はいそう) | 修骨式・往生したら戻ってきてくださいと願う |
敬礼偈 | 同述 |
回向・総回向偈 | 同述 |
十念 | 10回念仏を唱える |
還相回向偈(げんそうえこうげ) | 「極楽往生し悟りを開いたら、私たちのところへ還ってきて導いてください」と願う |
読経 | 総回向(そうえこう)、総願偈(そうがんげ)などの経文を読む |
退堂 | 僧侶が退場 |
告別式は、葬儀のあとに、参列者が故人様とのお別れをする儀式として行われます。最近では、葬儀に続いて参列者の焼香や弔電紹介が行われるなど、葬儀と告別式が同時に行われることも増えています。
出棺・火葬
棺の中に花を入れ、故人様と最後のお別れをしてから、棺の蓋に釘を打つ「釘打ち」を行います。最近では、釘打ちをしないことも多くあります。
火葬については、他の宗派との違いは特にありません。遺骨を骨壷に納めて自宅に持ち帰り、安置するのが一般的です。
3. 浄土宗の葬儀の喪主が押さえておくこと
ここからは、浄土宗の葬儀を執り行うときに喪主が押さえておくべきことを、何点かご紹介します。
浄土宗葬儀の祭壇の装飾
浄土宗の祭壇を飾る花に、特別な決まりはありません。従来、葬儀の祭壇では白い菊や百合、蘭といった花が主に使われていましたが、最近では故人様が生前好んだ花を使って祭壇を彩る方も増えています。
浄土宗における戒名の付け方
浄土宗では、生前に授戒会(じゅかいえ)に参加することで戒名が与えられますが、授戒会に参加できずに亡くなる方も少なくありません。その場合、死後に僧侶が授戒の儀式を行い、戒名を与えます。
浄土宗の戒名構成は、他宗派と同様に「院号」「道号」「戒名」「位号」の4部分から成り立っています。故人様の名前に基づいて決められる「戒名」、故人様に縁のある地名から取られる「道号」に加え、社会や寺院への貢献度に応じて「院号」や「位号」が付与されます。
浄土宗の戒名の意味や構成について詳しく知りたい方は、「戒名の構成」について解説した記事をお読みください。
僧侶に渡すお布施の相場
株式会社鎌倉新書が2022年に行った「第5回お葬式に関する全国調査」によると、葬儀で僧侶に渡すお布施の平均費用は22.4万円でした。
以下に、都道府県別のお布施金額の目安の一例を挙げます。
・埼玉県:約31.37万円
・千葉県:約29.09万円
・東京都:約23.61万円
お布施の金額は、院号や位号などの種類によって大きく異なりますので、事前に寺院に確認しておくとよいでしょう。
引用:株式会社鎌倉新書「第5回お葬式に関する全国調査(2022年)」より
4.浄土宗の葬儀の費用相場
浄土宗の葬儀の費用は、それ以外の宗教・宗派と比べて特に差はありません。前項でもご紹介した「第5回お葬式に関する全国調査」によれば、お布施の金額を除いた葬儀の平均費用は110.7万円でした。
この費用には、下記のような費用が含まれています。
・基本料金:斎場利用料、火葬場利用料、祭壇費用など
・飲食 :通夜ぶるまい、告別料理などの飲食
・返礼品 :香典に対するお礼の品物
葬儀にかかる費用は、主に下記のような項目によって変動します。
・葬儀の種類(家族葬、一般葬、一日葬など)
・使用する斎場や寺院、火葬場の使用料
・祭壇のデザイン
・追加サービス(写真やビデオ撮影などのオプション費用)
・お布施の金額
・参列者の数
予算を有効に使うためにも、事前に葬儀社の事前相談などを利用して、葬儀に関する理解を深めておくことをおすすめします。
5.浄土宗の葬儀の服装【喪主・参列者】
浄土宗の葬儀における服装は、他の一般的な仏式葬儀と同様です。以下では、葬儀での適切な服装について、喪主様と参列者それぞれの場合に分けて説明します。
喪主とその妻の服装
喪主様、そしてその妻は、もっとも格式の高い正喪服を着るのが一般的です。和装の場合は、男性は紋付羽織袴、女性は染め抜きの黒無地に五つ紋の着物です。
洋装の場合は、男性はモーニングスーツ、女性は黒のワンピーススーツやアンサンブルなどのブラックフォーマルを選びます。
一般参列者の服装
一般の参列者の場合は、準喪服を着ます。男性ならブラックスーツ、女性なら黒のワンピースやアンサンブル、スーツなどです。
なお「平服でお越しください」と案内された場合、それは普段着ではなく「略喪服」を意味します。略喪服とは、男性の場合はダークスーツ、女性の場合は黒や紺、グレーなどの色のスーツやワンピース、アンサンブルを指します。
6.浄土宗の葬儀に参列するときのマナー
浄土宗の葬儀においては、焼香の方法や数珠の持ち方に特有のマナーが存在します。
以下では、浄土宗の葬儀に参列する際に知っておくべきマナーについて解説します。
焼香の作法
浄土宗の焼香の作法の流れをまとめましたので、参考になさってください。
1.香炉の前で合掌と一礼
浄土宗の一般的な作法では、合掌した手のひらの位置はみぞおちあたりとします。礼をするときの体の角度は斜め45度くらいです。
数珠を持っている場合は、両親指に掛けます。浄土宗では、手のひらで数珠をこすり合わせることはしないので、注意しましょう。
2.お香をつまんで、額におししただく
お焼香の際は、左手首に数珠を掛けます。
右手の親指・人差し指・中指でお香をつまみ、その手を上に向け、左手を右手の下に添えます。両手を額の高さくらいまで上げる(額に近づけるのではない)と同時に、頭も軽く下げます。
3.お香を香炉に入れ、再び合掌と一礼
再び両親指に数珠を掛けてから、合掌して一礼します。
浄土宗では、焼香の回数に決まりはありません。一般的には1~3回ですが、参列者が多い場合には1回にするとよいでしょう。
葬儀で使う数珠
数珠は、参列するお葬式の宗派に合わせる必要はなく、自分が持っている数珠を使ってかまいません。
ここでは参考までに、浄土宗の数珠の種類や持ち方を以下にご紹介します。
数珠の種類
浄土宗の数珠は、二つの輪が組み合わさった二連の数珠となっているのが特徴です。
浄土宗の数珠は、大きく分けて荘厳数珠、日課数珠、百八数珠、百万遍数珠の4種類があります。通常、信徒の方は、日課数珠(毎日お念仏を唱えるための数珠)の数珠を使います。
数珠の持ち方
数珠を持ち合掌して拝む際は、数珠をそろえて合掌した両方の親指に掛け、房を自分の方に向けて親指の後ろに垂らします。
合掌していないときは、二連とも一緒に左の手首に掛けます。
仏教が生まれたインドでは、右手で食事をとり、左手で掃除などをします。このことから、右手は清浄な仏様を、左手は煩悩を持つ自己を象徴していると考え、煩悩を消し去るために左手に数珠を掛けるのです。
お香典の相場・表書き
浄土宗のお香典の相場は、他の宗派と同様です。下記に、およそのお香典の相場を、故人様との関係別にご紹介します。
亡くなった方との関係 | 金額 |
---|---|
両親 | 3万円~10万円程度 |
兄弟姉妹 | 3万円~10万円程度 |
祖父母 | 1万円程~5万円程度 |
ご親戚 | 3千円~3万円程度 |
友人・知人 | 3千円~1万円程度 |
職場の同僚 | 5千円~1万円程度 |
故人様との実際の関係の深さによっても金額は大きく変わってきますので、あくまで目安としてお考えください。
なお、お香典の表書きについても、他の宗派と変わりはありません。通夜や葬儀では「御霊前」「御香典」と書き、四十九日以降は「御仏前」または「御佛前」と書きます。
7.浄土宗の葬儀後の法要は?
浄土宗の葬儀後の法要は、他の仏教宗派の法要と変わらないと考えてよいでしょう。
亡くなって1年目の祥月命日(しょうつきめいにち)に行う一周忌法要までには、初七日(しょなのか)法要、四十九日法要、新盆(にいぼん、はつぼん)などの法要が主に行われます。その後、一周忌や三周忌など、節目の祥月命日ごとに、年忌法要を行います。
仏式の法要について詳しく知りたい方は、「法要の準備やマナー」を参考にしてください。
8.浄土宗の独自の作法を理解して故人様のお見送りを
仏式の葬儀を行う際は、宗派によって葬儀の特徴や作法が異なります。浄土宗にも特有の教えや作法がありますので、それらを尊重し、心よりご冥福を祈ることが大切ではないでしょうか。
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