「彼女と一緒にお茶やランチをするような感じにできれば」
始まりは、喪主であるご主人様のこのお言葉からでした。
とはいえ、そのような葬儀ができるということを最初からご存じだったわけではありません。
私たちはこの時、ある生花店から紹介を受け、その生花店のフラワーデザイナーと一緒に伺っていました。その段階では、ご主人様は私たちのことをまだ詳しくご存じではなく、一般的な葬儀しかできないものだと思っていらっしゃったのです。
そんなことはない。
世界に一つのセレモニーができる。
そのことをご主人様が知ったのは、奥様の生前について私たちがヒアリングをさせていただいていた時でした。
50代前半という若さで亡くなられた奥様。
アパレル関係のお仕事をされていただけあり、写真で見るお姿も、都会的で洗練された印象でした。
そしてご主人様は、お住まいのある目黒周辺でご友人たちと時折お茶会・ランチ会を開かれていたことや、パスタやエビフライがお好きでよく召し上がっていたことなどを私たちに話してくださいました。
その時に、冒頭の「彼女と一緒にお茶やランチをするような感じにできれば…」という言葉が出てきたのです。
「それ、やりましょう」
私たちはそう言いました。
「え…そんなこと、できるんですか?」
ご主人様は驚かれました。
無理もありません。
言ってみたものの、現実にはできるはずもない。
一般的な葬儀は彼女のイメージではないし、参列してくれる彼女の友人たちもきっとそう思うはず。でも、それしか選択肢がないから仕方ない…そう思ってらっしゃったのですから。
しかし、私たちの葬儀への想いを語らせていただき、「だからこそ、ご主人様の想いを形にしましょう」とお伝えすると、ご主人様の目は輝き始めました。
それからは、
「彼女の好きだった洋服を飾りたい」
「彼女の好きだったパスタやエビフライをお出ししたい」
など、ご一緒にさまざまなアイデアを出していき、話は熱を帯びていきました。
さまざまな困難を乗り越えて
ご意向を形にしていくにあたっては、さまざまな困難がありました。
食事会をするためではないスペースで、どのように食事を出すのか?
食事や配膳の手配をする時間もない中で、どのようにして間に合わせるか?
中でも難しかったのは、祭壇の配置でした。
通常、祭壇は会場の奥に配置されています。
しかし、それではご主人様のご意向である「一緒にお茶やランチをするような感じ」にはなりません。
「どうすればいいのか…」
社内の五感ミーティングでも、すぐに良いアイデアは出てきませんでした。
すると…
「ご本人もいらっしゃるという形にしたらどうでしょうか?」
あるスタッフがそう言いました。
それはつまり、「棺を会場の真ん中に配置する」というアイデアでした。
もちろん、前例がない、まさに前代未聞の配置です。
そんなことをして大丈夫なのか?
私たちも、さすがに初めは戸惑いました。
しかし、ご主人様のご意向を実現にするにはこの形がベストであると思えたのも事実でした。
「よし。それで行こう」
こうして、「故人様を囲んでの立食パーティ」という葬儀の形が出来上がっていきました。
もちろん、ご遺体が目の前にある状態で食事が進むのか?という不安もありましたので、花の配置の仕方や棺を高めに配置するなど、配慮もしっかりと行いました。
全ての流れにストーリーを
このアイデアは、「そこまで自分の思いを形にしてくれるとは…」とご主人様にも喜んでいただくことができました。
他にも、
- おしゃれだった奥様の印象をさらに強く残すべく、奥様の人生のストーリーを書家の方に書いていただき、会場の入口前に飾る
- ご夫婦で桜を見に行くのが好きだったというお話を受け、まだ桜の開花には少し早い時期だったところ、西から桜を取り寄せ、温暖な環境に保管して葬儀の日に開花させ、壺に生けて飾る
といった心遣いもさせていただきました。
こうして。会場に入るところから会場を後にするところまで、全ての流れに奥様らしさ、そして奥様のストーリーが感じられる葬儀が出来上がりました。
一瞬の驚き、そして「彼女らしいよね」という微笑みへ
交流関係が広かった奥様だけに、式の当日は本当にたくさんの方が訪れてくださいました。
芸能人の方々もいらっしゃいました。
皆さん一様に、入口手前に飾った書を見た段階で「他の葬儀とは違う…」という雰囲気をすでに感じ取っておられたようでした。
そして、それは私たちスタッフが入口のドアを開けた時に、さらなる驚きへと変わります。
「え…!?」
無理もありません。
今まで見たこともない、棺を真ん中に配置した祭壇があるわけですから。
もちろん私たちはその驚き、戸惑いを想定していましたので、すぐにご誘導・ご案内をさせていただきました。
そして、お渡ししたプロフィールカードをご覧いただくご案内もいたしました。
それは奥様の軌跡(生まれ育った環境、人生のキーとなる出来事など)を綴ったカードですが、同時に会葬礼状として、なぜこのような空間になっているのか、ということが、喪主であるご主人様の想いとともに記されていたのです。
その内容には、式において司会からも語られました。
すると、私たちはこんな言葉を耳にしました。
「彼女らしいよね…」「そうよね…」
奥様と特に仲が良かったと思われるご友人の方々が、そのような会話を静かにされていたのです。
私たちにとって、この時ほど嬉しかったことはありません。
今まで見たこともない葬儀を「彼女らしい」と感じていただけた。
私たちの、いや、ご主人様の想いが伝わったと実感した瞬間でした。
そして、式では焼香などは行わず、代わりに会葬者には花びらの献花をしていただき、親族には献灯式にて献灯をしていただきました。
その後、棺のまわりに配置された円卓で、奥様のお好きだったワインで献杯。
運ばれるお料理ももちろん、パスタなど、奥様がお好きなもの。
まさに奥様を囲んでのお茶会・ランチ会が繰り広げられ、花咲く祭壇のまわりで、会葬者の方々も奥様の話に花を咲かせたのでした。
しかし、私たちの企画はここまでで終わったわけではありません…。
最後に、ご親族へのサプライズ
翌日は、家族や親族だけが集まった式でした。
ここで私たちは、ご主人様にもお伝えしていなかった、あるサプライズを用意していました。
それは…
「あ…これって…!」
「しかも、揚げたてだよ!」
式の後のお食事の時間に、エビフライを出したのです。
しかも、仕出しのものでは冷えていて味気ないので、バックヤードで調理のプロに揚げていただきました。
その揚げたてを、ホテルの配膳担当の方が、一つ一つ、皆さんにサービング。
奥様の大好物だと知っているご家族・ご親族だからこそ、このサプライズには本当に感激していただけました。
「こんないい葬儀ができると思いませんでした。本当にありがとうございました」
ご主人様のお言葉、そしてこの葬儀は、今でも忘れられません。
これまでの葬儀ではありえなかった「棺を真ん中に置く」というスタイルを受け入れていただき、そしてご家族、ご親族、会葬者の方々にも共感していただけた。
このような感動の葬儀をこれからも提供していきたい。
その想いを強くした葬儀となりました。